「人工知能と脳細胞を融合」画期的なブレークスルーが起こる! 意識が芽生えるのは時間の問題か

 実験室で作られ、さまざまな研究に活用されているヒトの“ミニ脳”である「脳オルガノイド」だが、このヒト由来の脳オルガノイドとAI(人工知能)を組み合わせたらどのようなことが起こるのだろうか。最新の研究ではこの“タッグ”に秘められた大きな可能性とともに、将来直面することになる倫理的問題が指摘されている――。

新開発の「生きたAIハードウェア」

 ご存じのように現在、囲碁や将棋で人間がAIに太刀打ちできなくなるという驚くべき時代を迎えてしまっており、AIを搭載した自動運転車の実用も近いといわれている。

 AIの優秀性と大いなる可能性ばかりが取り沙汰される昨今だが、人間の脳にはAIの追随をまったく許さない大きなアドバンテージがある。それは優れたエネルギー効率だ。

 たとえば人間の脳は約20ワットの電力で動作しているが、囲碁で世界チャンピオンのイ・セドルを倒したことで有名なAI「アルファ碁」は5000ワット以上の電力を使っていたのである。

 このように人工知能は急速にパワーアップしているものの、そのすべての処理には多くのエネルギーが必要である。そこで現在、アメリカの科学者による最先端の研究によって、人間の脳細胞を使用することで、AIのエネルギー消費量を大幅に削減できる可能性が指摘されている。

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「Daily Star」の記事より

 米インディアナ大学ブルーミントン校のフェン・グオ氏が率いるチームは、実験室で成長させた人間の脳オルガノイドとAIを組み合わせた“生きたAIハードウェア”に基本的な数学の問題を解かせることに成功した。

 研究者たちが「ブレイノウェア(Brainoware)」と名づけたバイオAIがシリコンベースのコンピューターハードウェアに取って代わり、はるかに少ないエネルギー要件で高性能のコンピューターを作成できると言及している。

 AIが実行するタスクがより複雑になるにつれてより多くのパワーが必要になる。たとえば自動運転車は従来の車よりも最大20%多くのエネルギーを使用すると推定されている。自動運転の車や航空機が当たり前になった社会では今とは比較にならないほどの膨大な電力が必要となる。

 しかし、ブルーミント校チームの「脳オルガノイドの3D生物学的ニューラルネットワークの計算能力を活用する生きたAIハードウェア」は、そのすべてを変える可能性がある。

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「New Scientist」の記事より

脳オルガノイドに“意識”が芽生える日は近い!?

 2021年、オーストラリアのブレット・ケイガン氏の研究チームは、実験室で培養したヒトとマウスの脳細胞にビデオゲーム「Pong」をプレイさせることに成功した。研究チームが「DishBrains」と呼んでいる生物学的人工知能は、従来のAIよりもはるかに速くゲームのルールを学習したのである。

 一方で今回のグオ氏の研究チームは「脳オルガノイド」として知られる3次元構造を使用して「ブレイノウェア」を作成した。

 研究チームはこの「ブレイノウェア」に「エノン写像(henon map)」と呼ばれる非線形方程式を解かせることに成功したのである。エノン写像はその無秩序な挙動のために予測が困難な問題である。

 ブレイノウェアは長・短期記憶(LSTM)ユニットのない従来のAIよりも優れてはいるものの、今のところはLSTMを備えたAIよりも精度が劣っているということだ。しかしポイントはそこにあるのではなく、脳オルガノイドとAIを組み合わせることで実現できる圧倒的“省エネ”のコンピューティングにある。

 ケイガン氏はグオ氏のブレイノウェアを「エキサイティングなアイデアです」と称賛している。

「脳オルガノイドは生物学的ニューロンを情報処理に使用するためのエキサイティングな次のステップであり、過去15カ月間、さまざまな協力者と一緒に研究してきたものであり、多くの興味深い活動パターンを示しています」(ブレット・ケイガン氏)

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画像は「Pixabay」より

 現状では脳オルガノイドには血管がないため大きさが3ミリメートルを超えることはない。しかし今後、研究者たちはより大きな脳オルガノイドを作成してより優れた生物学的人工知能の開発を目指すことになるだろう。

 とすれば脳オルガノイドに“意識”が芽生えてしまうのではないかという倫理的な問題に直面する日が急速に近づいてきているともいえる。広範な知見からの本格的な議論がすでに必要とされていると言えそうだ。

参考:「Daily Star」「New Scientist」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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