『食人族』の魅力は凄惨な暴力とエログロだけではない… 撮影隊は人類そのものであるという徹底的な社会風刺!
※鑑賞を妨げない程度のネタバレが含まれます。
“グリーン・インフェルノ”という南米アマゾンの奥地を探検中にTV番組のドキュメンタリー撮影隊が消息を絶った。捜索隊が救助に向かうと、現地部族の村に到着し、そこで彼らの白骨遺体を発見。ジャングルからは彼らの遺棄された撮影機材を回収した。撮影したフィルムは活きていて、現像可能だった。そして映像を見てみると、そこには言葉を失うほどの凄惨な映像が記録されていた。
いまから40年前の1983年に日本で公開され、食人という極めてグロテスクなテーマであるにもかかわらず、興行収益10億円という記録的ヒットとなった映画史上最大の問題作『食人族』。同作がなんと“4Kリマスター無修正完全版”として奇跡のリバイバル公開され、連日多くの客が映画館に押し寄せているという。
『食人族』の監督はルッジェロ・デオダート。同作は彼の生涯にわたっての代表作となった。監督は同作の前にも『カニバル』という食人族を描いた作品を制作している。こちらはB級臭の満載のエンタメホラーとなっているが、食人映画史の歴史的資料として一見の価値はある。
『食人族』に話を戻すと、作品の最大の特徴は、POV(ポイント・オブ・ビュー)方式と呼ばれる主観視点で制作されたモキュメンタリー(フェイク・ドキュメンタリー)という点だ。公開当時は本物の映像という触れ込みだったため、真実と誤解した視聴者が多かったという。
ホラー映画を本物の映像と誤解するわけがないと思うかもしれない。しかしその当時、ヤコペッティの『世界残酷物語』を中心としたドキュメンタリー映画のヒットも相まって、地球のリアルを追い求める時代でもあった。さまざまな技術が急速に発展していくなかで、海外にも行きやすい時代に突入し、世界に存在する数多の文化を見聞できるようになり、”文明”の力で世界はある意味狭くなっていった。だからこそ、相反する”未開”はある種のロマンスを帯び、興味の対象となっていった。人々はこの凄惨な映像が真実であり、カニバリズムを有する極めて非文明的な部族がまだ地球に存在するという可能性を否定できなかったし、信じたいという願望もあったのではないか。
いま改めて観ると時代を感じる作りであったり、予算の限界が映像から垣間見られたり、インターネットによって世界がさらに狭くなった現代においては、この映像が本物とは信じるのは難しいかもしれない。だが原住民のおどろおどろしい演出や、凄惨な暴力描写は完成度が恐ろしいほど高い(実際に野猿やカメなど野生動物を捕食するシーンは本物)ことには間違いなく、映像技術が現在ほど高くなく、地球への理解度やモラルが現在ほどなかった当時であれば、本物と信じ込んでしまうことはそう難しくはなかったはずだ。さらにドキュメンタリー映画という前提が人間的な真実味を帯びさせることを助長し、目を覆いたくなるほど史上最悪のバッドエンドが観た者の思考を完全に停止させるのに成功させた。これは現実だと。
だからこそ、『食人族』が世間に与えた衝撃は計り知れないものだった。と同時にまだまだ地球は魅力的だということを示した。この功績は大きい。
この映画の素晴らしい点はそれだけではない。強烈な社会風刺を盛り込ませている。ラストに映画から観ている者に、1つの疑問を投げかけられる。視聴者はそれにどう答えを出すのか。ChatGPTをはじめとしたAIがビジネスや生活に入り込むようになるほど、”文明”はいまも急速な発展をし続けている。その一方で我々は地球の安寧を迎えたことがない。ロシアとイスラエルを中心とした世界的な緊張までもが発生した。グリーン・インフェルノに探検に行った撮影部隊は、実は人類そのものではないだろうか。
ホラーという観点でいうと、『食人族』を初めて観た時、衝撃すぎて筆者は鬱になってしまったことを覚えている。しかし、これは大袈裟なことではなく、『食人族 てんこ盛り食人愛好家盤』のDVD特典映像などでも確認できるが、リバイバル上映の度に卒倒して救急車に運ばれたり、嘔吐してしまう者が続出する。それだけ鬱で、凄惨で、救いのない物語である。
実際の野生動物を捕食しているなど何かといわくつきの作品であることは間違いなく、劇場で観られるのは今回が最後かもしれない。この機会を決して逃さず、POVモキュメンタリーの金字塔にして、最高傑作を是非ともその目で確かめてもらいたい。しかし、それなりを覚悟を持って観ないと後悔する。
ちなみに同作には『食人族2』などナンバリングタイトルもあるが、それらは本作とは無関係なZ級のホラー映画だ。それはそれで面白いが、正統続編では決してないのでご注意を。
※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。
関連記事
人気連載
“包帯だらけで笑いながら走り回るピエロ”を目撃した結果…【うえまつそうの連載:島流し奇譚】
現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、う...
2024.10.02 20:00心霊『食人族』の魅力は凄惨な暴力とエログロだけではない… 撮影隊は人類そのものであるという徹底的な社会風刺!のページです。食人、モキュメンタリー、カニバリズムなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで