超激レア本から学ぶ“切腹女子”たちの歴史とは!? 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本

「驚異の陳列室」を標榜し、写真集、画集や書籍をはじめ、5000点以上に及ぶ奇妙な骨董品を所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。

 SNS投稿などでそのコレクションが話題となり、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れるようになった同店。今では少子高齢化にあえぐ地方都市とは思えぬほど多くの人が集まる、別府の新たな観光名所になっているという。

 本連載では、そんな「書肆ゲンシシャ」店主の藤井慎二氏に、同店の所蔵する珍奇で奇妙な本の数々を紹介してもらう。

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「書肆ゲンシシャ」内観

現代に復活した100年前の「偽りの斬首」写真

――前回の記事では「性」に関する書籍がテーマでしたが、こうした本を読みたくてゲンシシャに来られるお客さんもたくさんいるんですね?

藤井慎二(以下、藤井):はい。「自分の初体験の話」や「レズ風俗に行った話」をずっとしゃべっていくお客さんもいて、もはや何を話してもいいような空間になっています。

――だんだん、藤井さんもカウンセラーみたいになってきました……。こうした性に関する書籍を仕入れようとして、税関でストップがかかったケースもあるのでしょうか?

藤井:男性からのリクエストがあってアメリカの通販サイトで「カウボーイが表紙のゲイ向けの写真集」を買い付けたのですが、税関で止められました。5〜6万円くらいしたんですけどね。

――『ブロークバック・マウンテン』という映画もあるぐらいなのに、なぜなのでしょう?

藤井:税関の担当者のさじ加減があるんですよ。

――そんなこともあるんですね……。さて、これまで本連載ではゲンシシャが所蔵している、珍奇で奇妙な書籍を紹介してもらいましたが、今回はゲンシシャが所蔵している古写真を取り上げます。

藤井:この連載では「死後写真」と「隠された母」の写真を紹介してきましたが、ほかにも紹介したかったのが、「Horsemaning(ホースマニング)」という写真ジャンルです。

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――斬首された死体の写真ですか? 地面に生首が転がっています。

藤井:人間の首を切られているように見えますが、実はこれ2人で撮ったフェイク写真なんです。ひとりが頭を隠して体を出し、もうひとりは体を隠して頭だけ出すという古典的なトリックですね。Horsemaningは「偽りの斬首」とも呼ばれ、1920年代に欧米を中心に流行しましたが、近年海外のティーンエイジャーの間でネットミーム的に再流行しています。

――確かによく見たら、中高生がSNSに投稿しそうな写真ですね。ちなみに、ファンタジー小説などに登場する「首なし騎士デュラハン」を英語で「Headless Horseman(首なしの馬のり)」と呼ぶそうで、そこから「Headless」が抜けて「Horseman」に進行形の「ing」がついたことで、“首が飛んでいる人”という意味合いになるみたいですね。

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藤井:「隠された母」の写真もそうですが、かつて流行していた写真が100年後に再び注目されて、撮られるようになるという現象を興味深く捉えています。一時期、日本の女子高生がジャンプして波動拳を出しているような写真が海外のSNSでも人気を博しましたが、そのような写真も100年後に誰かが発掘して、再流行するかもしれないと思うと、わくわくしますね。

――そういう楽しみ方もあるんですね。ちなみに、こうした写真はどこで見つけて購入するのでしょうか?

藤井:海外のオークションサイトから直接買い付けています。Horsemaningは英語版のWikipediaにページができるほど、海外では人気の写真ジャンルなので、もっと写真を集めて、いつか写真集を作ることができたらいいなと思っています。

――いずれ、「ゲンシシャ出版」が立ち上がるかもしれませんね。

「切腹研究25年」の著者による幻の一冊

藤井:ほかに珍しい写真ジャンルといえば、当店は「女性の切腹写真」を多数揃えております。

――聞き慣れないジャンルをサラッと言わないでください……。

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『エロティック・ジャポン』(河出書房新社)

藤井:これは上半身裸の女性が自らの腹を切って腑が飛び出ている……みたいな写真を指します。「女性の切腹」には昔からマニアがいて、戦後のアブノーマル雑誌「奇譚クラブ」でも取り上げられたこともあります。フランスの女性ジャーナリストが書いた本『エロティック・ジャポン』(河出書房新社)でも取り上げられ、不二企画の「ハラキリビデオ」が紹介されています。「ハラキリビデオ」は、「緊縛美研究会」、通称「緊美研」の不二秋夫によれば、「それぞれ一タイトルにつき五〇〇本は売れている」そうです。

――もちろん、女性が切腹する「フリ」を捉えたものということですが、これはフェチジャンルのひとつなのでしょうか?

藤井:そうですね。本来、男性(武士)がする切腹を、女性が行うという点に性倒錯があるのでしょうね。以前、来店されたカメラマンが「福岡に切腹写真を撮りに行く!」と言っていたので、今でもアンダーグラウンドな場所では連綿と続いているようです。

――Googleで画像検索するといろいろ出てきますね。艶っぽい苦悶の表情を浮かべているため、確かにいやらしい雰囲気も感じます。

藤井:当店が所有しているのは、聖子ちゃんカットやジーパンを履いた女性の切腹写真です。この写真文化は世間的にあまり知られていないため、初めて見たお客さんはとても驚かれますね。「本当に切腹してるんじゃないの?」と聞かれてしまうほどです。

――映像ではなく写真だからこそ、余計に生々しさがありますね。

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藤井:「女性の切腹」については『切腹 烈女編』(文芸タイムス社)という、とても希少な本で詳しく紹介されています。入手困難な本ではありますが、キレイな箱に入っていて、「切腹」の文字がエンボス加工されています。

――豪華(笑)。

藤井:女性の切腹ショーの写真や絵画作品など図版も豊富で、さらに「終戦当時切腹した19歳の女性の28年目の創痕」の写真が載っていて、切腹に関するエピソードも多数掲載されています。しかも、「烈女切腹史」という章では「神話を信ずるなら女性が、切腹第一号」という記述まであります。

――めちゃめちゃ、興味をそそられます。

藤井:昔の週刊誌が調査したアンケートも紹介されていて、これがまた面白いんですよ。都内の未婚者180人に「愛しきっていた相手から捨てられたとした場合、あなたが自ら死を選ぶことがあると思いますか」と聞いたところ、「ひょっとしたらやる」「きっとやる」と回答した人の割合が恋人がいない場合35%、恋人がいる場合42%だったそうです。さらに、日本の未婚者の10万人にひとりくらいは、「若しふられたら切腹しちゃお」と思っているかもしれない、と著者は書いています。

――シビアな質問テーマなのに、ずいぶんとフランクなノリですね。

藤井:ほかにも、室町時代や戦国時代における女性の切腹など、史実に関する話も収録されており、さらに歴史上の人物から現代に至るまで、切腹して亡くなった女性がリスト化されています。その人がどんな職業に就いていて、いつどこで切腹したのか、そして自死に至った理由まで列挙されています。前出のアンケートではありませんが、やはり失恋が原因で切腹した女性もいるそうですよ。

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――よく調べましたね。切腹は武士の作法以前に、メジャーな自殺・自害の方法だったのかもしれませんが……。

藤井:ちなみに、著者の中康弘通氏は「奇譚クラブ」に、切腹にまつわる作品を数多く残してきた専門家です。この本のあとがきには「切腹の研究に手をつけてから25年、やっと2冊目の著書が出た」とありますが、それほどの期間研究を続けてきたということですよね。さらに、同書では割腹自殺を遂げた三島由紀夫に向けて「三冊めはあなたのお気に入るような本を出しますよ、その御霊前に申し上げておきたい」とも書いてあります。

切腹女子は歴史学者にとって怪しくも魅力的なテーマ

藤井:ほかにも女性の切腹では、入手したことはありませんが、女優の早乙女宏美氏の『切腹写真大全』(永田社)という写真集も有名です。限定200部で品切れのため全然買えないんですよね。その代わり、当店には早乙女宏美氏の『匂う蓮』という「切腹オマージュ写真集」の桐の箱入りの特装版があります。ヴィレッジヴァンガードのオンラインショップで購入したのですが、私が購入したものが市中在庫の最後の一冊だったようです。

――ヴィレヴァンにそんな本があるんですね。

藤井:同書には女性が切腹する様子が描かれた、伊藤晴雨のイラストが載った冊子もついてきます。前出の「奇譚クラブ」に掲載されていたもののようです。

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――この連載では伊藤晴雨が当たり前のように出てきますね……。初めての読者に説明すると、緊縛画が有名な日本画家です。

藤井:あと、同書には、歴史学者の氏家幹人氏が、歴史上の切腹した女性についてまとめた「歴史のなかの切腹女子たち」という文章も載っています。「〈女性の切腹〉が歴史学者にとって妖しくも魅力的なテーマであることは十分承知している」とも書いていますね。

――読者ついていけているんでしょうか……。

藤井:あと、何の雑誌かは不明ですが、当店にはガリバン刷り時代のSM雑誌のゲラがあって、それには「女性の切腹の手順」が書いてあるんですよ。「切腹プレイ」とあり、髪や衣装、小道具、切腹までの所作や手順が図版とテキストで詳しく示されています。

――万一、切腹写真を撮影を担当する機会あれば参考にします……。ちなみに、前出の聖子ちゃんカットの女性の切腹写真などは、どこで入手したんですか?

藤井:神保町の古本屋ですね。「切腹写真」が約250枚も売られていました。それを一括で購入したのですが、そこの店主がいうには本当は500枚あったそうなんです。私以外にも外国人の方が、250枚だけ買っていったらしいです。

――謎の切腹女子の写真250枚が、海外の同好の士に渡りましたね。

藤井:時を経て、いつかまた500枚が合わさるときが来るといいですね。それも一冊の写真集にまとめることができたら、非常に価値の高いものになると思います。

書肆ゲンシシャ 大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜しており、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1000円払えばジュースか紅茶を1杯飲みながら、1時間滞在してそれらを閲覧できる。
所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
http://www.genshisha.jp

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文=伊藤綾

1988年生まれ道東出身。いろんな識者にお話うかがったり、イベントお邪魔したりするのが好き。サイゾーやSPA!、マイナビニュース、キャリコネニュース等で執筆中。友人や知らない人と毎月1日に映画を観る会(@tsuitachiii)を開催

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