妊娠するラブドールに死体絵画… 芸術家が集まる別府の特異性とは? 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本
――【連載】驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する想像を超えたコレクションを徹底紹介!
「驚異の陳列室」を標榜し、写真集、画集や書籍をはじめ、5000点以上に及ぶ奇妙な骨董品を所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。
SNS投稿などでそのコレクションが話題となり、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れるようになった同店。今では少子高齢化にあえぐ地方都市とは思えぬほど多くの人が集まる、別府の新たな観光名所になっているという。
本連載では、そんな「書肆ゲンシシャ」店主の藤井慎二氏に、同店の所蔵する珍奇で奇妙な本の数々を紹介してもらう。
どうしてゲンシシャは別府にある?
――今さらですが、なぜ藤井さんはわざわざ別府にお店を構えたんですか?
藤井慎二(以下、藤井):一番は、僕が別府出身ということですね。別府は人口約12万人のこぢんまりした田舎で、観光客が歩ける範囲で街ができているのですが、その一方で少し都会っぽいところもあります。観光地のため、昔から人の出入りが激しく、田舎なのにあまり他人に干渉しない雰囲気もあって、それをおもしろいなと思ったんです。
――なるほど。東京の大学に通われていた藤井さんにとっては、Uターンということになるんですかね。
藤井:あと、温泉地のため、今でも成人映画館があったり、かつてはストリップ劇場や秘宝館などもありました。少し前まで成人映画館の裸の女性が写ったポスターが、高校生も通る道沿いに貼ってあったんです。あと、商店街にソープランドがあったりします。うちは異質な店ですが、すでに別府にはそういった場所があったおかげで、ある意味、地元住民にも耐性がついていたんだと思います。
――よくよく考えたら「別府地獄めぐり」だから、風土的に昔からエログロが好まれているんですかね。ワニの代わりに見られるコレクションというか。
藤井:ほかにも、近年はアート系の人も東京や大阪からたくさん移住してきているので、変わった人に出会いやすいんですよ。2018年にはアニッシュ・カプーアの個展も開催されました。今、別府では芸術家の移住を促進していて、「2030年までに1200人にする」という目標を掲げています。
――別府市の人口は12万人程度のため、人口の1%ほどが芸術家になるという計算ですね。それだけの人数なら外を歩いているだけでアート系の友達ができそうです。
藤井:他にも、東日本大震災をきっかけに移住してきたミュージシャンもいます。別府はかつて原爆センターがあったり、障がい者や傷ついた人たちが湯治に訪れる町です。手をかざしただけで病気が治るという女性もいました。在学生の半数が留学生という立命館アジア太平洋大学もあり、多様性に富んだ町なんです。いたるところに公共の温泉があって、温泉帰りに風呂桶片手に半裸で町中を歩くおじいちゃんもいます。
若手から大御所まで、奇怪な表現作品の数々
――そんな近年の別府とアートの関係も踏まえつつ、第6回は藤井さんが注目するアーティスト、アート本をご紹介いただければ。
藤井:まず、注目の若手写真家のひとりとして、菅実花さんを紹介しましょう。彼女はまだ写真集は出していないのですが、うちには2021年に横浜のアートスペース「BankART」が出した彼女の冊子があります。そこには、埼玉県の「原爆の図 丸木美術館」で彼女が開いた、「リボーンドール」を死後写真風に撮った個展「The Ghost in the Doll(人形の中の幽霊)」の様子が載っています。
――彼女のプロフィールには「『人間と非人間の境界』を問う」とありますが、まるで『攻殻機動隊』のようなテーマですね……。ところで、「リボーンドール」というのはなんなのでしょうか?
藤井:本物の赤ちゃんと区別できないほど精巧に作られた人形です。もともとは赤ちゃんを亡くした母親の心を癒やすために作られていました。ヴィクトリア朝時代のイギリスでも「モーニングドール」という、幼くして亡くなった子どもの服を着た等身大のリアルな人形をつくるといったことがおこなわれていました。そして、これは過去の風習ではなく、今でも赤ちゃんの人形はセラピー目的で使われているようです。この作品だけではなく、彼女は《ラブドールは胎児の夢を見るか?》という、ラブドールを妊婦のように撮った作品でも知られています。
――数年前にSNSで話題になりましたね。菅氏は東京藝術大学の卒業・修了作品展で、その異色の作品で注目されました。「生殖」ということを改めて考えさせられます。
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