「ただそれだけのこと」テロ行為を爽やかに語る若者 ― 元・封印映画『日本暗殺秘録』が問うたもの
※本記事は2015年の記事の再掲です
――絶滅映像作品の収集に命を懸ける男・天野ミチヒロが、ツッコミどころ満載の封印映画をメッタ斬り!
【今回の映画 日本暗殺秘録】
ますます世界中を震撼させるイスラム過激派によるテロ。いかなる思想に基づくものであっても、人命を奪うテロリズムを肯定することはできない。だが、かつて「日本の若者の歴史を、血で描いて敢えて問う――暗殺は、是か!? 非か!?」というキャッチコピーを伴った『日本暗殺秘録』なる作品が公開された。
作品は学生運動の隆盛期に製作され、「アナーキズムやテロリズムを礼賛する」といった過激な内容ゆえ、クランクインの際に自民党・保利茂幹事長から東映社長に撮影中止要請があった。また公開後は、作品の影響で右翼になる若者が急増したと言われている。オールスターキャストの大作にも関わらず、長期に渡り「ソフト化不可能」(理由は未公表)と映画ファンの間で噂されてきた問題作だ。
監督は「実録ヤクザ路線」の中島貞夫、脚本は「仁義なき戦いシリーズ」の笠原和夫と任侠映画の巨匠コンビ。1860年3月3日に発生した「桜田門外の変」から1936年2月26日の「二・二六事件」まで、幕末から昭和にかけての9大テロ事件を時系列で再現した。わかりやすいように、各事件の配役を列記してみよう。
・桜田門外の変(1860年)……大老・井伊直弼を斬首した有村次左衛門に若山富三郎。
・紀尾井坂の変(1878年)……大久保利通を斬殺した石川県士族・島田一郎に唐十郎。
・大隈重信遭難事件(1889年)……大隈重信に爆弾を投げつけた玄洋社社員・来島恒喜に吉田輝雄。
・星亨暗殺事件(1901年)……心形刀流師範・伊庭想太郎、東京市会参事・星亨を斬殺。
・安田善次郎暗殺事件(1921年)……安田財閥の創始者・安田善次郎を刺殺した神州義団主幹・朝日平吾に菅原文太。
・ギロチン社・小坂事件(1923年)……摂政官暗殺を企てるため資金調達で強盗殺人を行ったギロチン社社員・古田大次郎に高橋長英。
・血盟団事件(1932年)……前大蔵大臣・井上準之助を銃殺した血盟団団員・小沼正に千葉真一。血盟団の指導者・井上日召に片岡千恵蔵、ヒロインに藤純子。
・相沢事件(1935年)……陸軍省軍務局長・永田鉄山少将を斬殺した陸軍中佐・相沢三郎に高倉健。
・二・二六事件(1936年)……元主計大尉・磯部浅一に鶴田浩二。ちなみに『シベリア超特急』で水野晴郎が演じた山下奉文に名悪役の神田隆。
このように、主役級が次から次へと登場するゴージャスさで、2時間半の長尺もまったく飽きが来ない。他にも『白い巨塔』の田宮二郎、『水戸黄門』の里見浩太朗、東映大部屋俳優ピラニア軍団の川谷拓三、「暗黒舞踏」の創始者・土方巽。名悪役にして『刑事コロンボ』の声優もこなした小池朝雄など、映画ファンにはお馴染みの俳優たちが大挙出演している。
上映時間の7割を「血盟団事件」で占めているが、他の短編エピソード「ギロチン社事件」での主犯・古田が知人と交わす会話が私は印象深かった。「僕が自分で爆弾を抱いて、自動車の下に潜り込むつもりなんです。民衆の正義を踏みにじっている圧政者を、民衆全体に代わって僕たちが処刑する。それだけのことです」。テロ行為を恐ろしいほど爽やかに語る26歳の純粋な青年・古田。高橋長英の高い演技力が堪能できるシーンだ。
そして、最後の最後に登場する高倉健と鶴田浩二。軍刀で軍務局長に斬りかかる陸軍中佐・相沢三郎に扮する健さんは、ここでも寡黙に「天誅!」とだけ声を発する。元主計大尉・磯部浅一に扮する鶴田浩二は、政府要人たちを次々と葬っていく。ラスト、二・二六事件の実行者15名が一人ずつ「天皇陛万歳!」と叫び、頭部に着弾する瞬間をアップで映し出す銃殺刑シーンは圧巻。
笠原和夫が脚本に込めたのは政治的思想そのものではなく、「権力」「軟弱外交」「汚職」「財閥」などに立ち向かい、テロリズムに生きる人間の激しいパッションだった。しかしピュアゆえに人を殺すテロリストは、男も惚れる人気俳優たちが演じていて、かなりヒロイック。つまり「是」と受け取ることもできる……。
単館上映も稀だったこの作品は数多の要望に応え、2011年にDVDが発売されファンを狂喜させた。封印解除である。映像特典の千葉真一と小沼正本人の対談は必見。
『日本暗殺秘録』
1969年公開・東映
監督/中島貞夫
脚本/笠原和夫、中島貞夫
出演/千葉真一、片岡千恵蔵、若山富三郎、鶴田浩二、高倉健、菅原文太、藤純子、里見浩太朗ほか
■天野ミチヒロ
1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究 家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイト ネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物 (UMA)案内』(笠倉出版)など。新刊に、『蘇る封印映像』(宝島社)がある
ウェブ連載・「幻の映画を観た! 怪獣怪人大集合」
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