人間が犯してはならないタブー……古くから人肉食を実践してきた8つの古代文化【前編】

 文明人としての人間が犯してはならない3大タブーとは、殺人、近親相姦、そして食人だ――。しかし人肉食については歴史を通じて考えられているよりも多くの文化が実際に行っていたのである。古来より人肉食を実践してきた古代文化をフィーチャーする今回の記事では、死者の脳を食べる風習から医療目的の“医療共食い”まで4つのカニバリズム文化を紹介したい。

「Ancient Origins」の記事より

■フォレ族:パプアニューギニア

 パプアニューギニアの東部高地に生息するフォレ族は、かつて何世代にもわたってきわめて不穏で珍しい形態の人肉食行為を行っていた。「同族共食い(endocannibalism)」と呼ばれるこの恐ろしい伝統は、愛する故人の霊魂があの世へ旅立つのを促進する方法として行われてきたが、その一方でクールー病(Kuru)として知らる神経の変性をもたらす治療不可能な風土病の蔓延を招いた。

 クールー病はヒトの脳に多く含まれるプリオンの摂取が原因で、罹患するとさまざまな神経症状を引き起こし、震え、運動制御の喪失、そして最終的に死に至るものであった。潜伏期間は5年から20年で、発症後に最終の第3ステージに達すると3カ月から2年で死亡するといわれている。

 フォレ族は長い間、彼らの人食い習慣とクールー病との関係に気付かなかったが、20世紀半ばになってから西洋の研究者がクールー病と人肉食との関連性を突き止め、フォレ族は徐々にその風習を放棄していった。現在、彼らはより現代的で危険性の低い埋葬儀式に移行しており、古代の伝統を尊重しながらもクールー病の脅威を取り除いている。

■アステカ族:中米

 15世紀前後に栄えたアステカ族は複雑で怪異なメソアメリカ文明であり、宗教に基づく儀式的なカニバリズムを伝承していた。

 その人食いの儀式はきまわめて残忍で、犠牲者のまだ鼓動している心臓を太陽神に捧げることで、大規模自然災害が起こるのを防ぐことができると信じられていたのである。そして多くの場合、儀式の過程で犠牲者の人肉を消費していた。

 これらの儀式の犠牲者は、多くの場合は捕虜、奴隷であったが、儀式のために特別に選ばれ犠牲を運命づけられていた者もいた。

 アステカ族は16世紀にスペインの征服者が到着するまでこの儀式を続けていたが、それ以降はアステカの人食い行為は抑制され、アステカ帝国が征服されてカトリックが導入されたため、最終的にはこの儀式は根絶された。

画像は「Wikimedia Commons」より

■アゴーリ派:インド

 アゴーリ派(Aghori)はインドの神秘的で禁欲的な一派で、1000年の歴史の中で想像を絶する型破りな精神的実践を行っており、その中にはカニバリズムの要素が含まれているものもある。これらの実践は、純粋と不純に関する従来の概念を超越し、存在のあらゆる側面を包含しようとする彼らの信念体系に深く根ざしているということだ。

 アゴーリ派は、人生の最もタブーで忌まわしい側面に立ち向かい、それを乗り越えることによって精神的な啓発が得られると信じており、人肉食行為は死者の霊的エネルギーを吸収し、それによって生と死のサイクルを断ち切る手段であるという。

 すべてのアゴーリが人肉食行為を行うわけではなく。人肉食を行うアゴーリは宗派の中でもエクストリーミスト(過激派)だとみなされているという。彼らは通常、火葬場から死者の遺体を入手して人肉を消費したり、頭蓋骨を食べるなどの象徴的な行為に従事している。

 アゴーリ派のこの人肉食は非常に物議を醸しており、部外者にはその実践がグロテスクに見え多くの誤解を生んでいる。しかしこの道を歩む人にとって、それは生と死の根本的な二重性に対峙し、それに伴う恐怖を超越する方法であるという。近年、アゴーリ派は一部の学者や好奇心旺盛な研究者の注目を集めており、インドで広く普及している社会規範に挑戦し続けている彼らの独特の哲学と実践は魅力的な研究対象になっているということだ。

画像は「Wikimedia Commons」より

■16~17世紀のヨーロッパ人

 歴史的に見て人肉の消費者の中にはヨーロッパ人がいたという事実には驚かされる。実際、人肉食の習慣は驚くほど最近まで存続していたのだ。

 16世紀から17世紀にかけて、意外にも多くのヨーロッパ人はミイラや人間の血液を含む人体を医療目的で消費していたのだ。この奇妙でやや陰湿な「医療共食い(medicinal cannibalism)」は、身体の特定の部分には強力な治癒特性があるという古代の信念や迷信に根ざしている。

 エジプトのミイラは特に人気があり、細かい粉末に粉砕されてから経口摂取または局所的に塗布されていた。当時のヨーロッパ人はミイラの保存方法とその起源のエキゾチックな性質がミイラに神秘的な治癒力を与えてくれると信じていたのだ。そしてこの“ミイラパウダー”は、さまざまな病気に対する究極の万能薬として販売されていたのである。

 もう1つの人気のある調合医薬品であるテリアック(theriac)は原材料に人間の血液が含まれており、強力な治癒特性があると信じられ、発熱から中毒まであらゆる治療に使用されていた。

 古代ギリシャ発祥のテリアックは、ペスト流行中およびその後の中世ヨーロッパで再び人気が再燃し、1884年には薬剤師によってヨーロッパ全土で販売されていた。

 もちろん、ミイラやテリアックの摂取には実際には何の医学的効果もなく、これらの習慣は、科学的理解の欠如と古代の文書や伝統への依存から生まれた迷信であった。医学知識が進歩するにつれて、人肉に対するヨーロッパ人の嗜好は薄れ、より効果的で科学的根拠に基づいた治療法が置き換えられ今日に至っている。

画像は「Wikimedia Commons」より

参考:「Ancient Origins」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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