絶対に立ち入ってはならない…闇が深すぎる「メキシコのチェルノブイリ」

 原子力事故があったわけではないのに“メキシコのチェルノブイリ”と呼ばれている場所がある。つまりそこは不用意に訪れてはならない危険な場所なのだ――。

■廃墟となった巨大団地群

 メキシコ・グアダラハラの大都市の一角には、廃墟となった広大な団地群が不気味に林立するエリアがある。

 正規の住人は誰もいないと思われる落書きだらけのコンクリートの建物が並ぶ一帯は不穏な静寂が辺りを包み、所々に破壊行為の痕跡が見られる。ここは麻薬カルテルのメンバーの隠れ家にもなっているといわれている。

「Daily Star」の記事より

 トラホムルコ・デ・スニガの一部を占めるこの巨大住居群は「メキシコのチェルノブイリ」と呼ばれるエリアで、放棄された建物の間には何百もの遺体が葬られているという。

 新興住宅地として2013年に建設された同エリアだが、すぐに有力な麻薬カルテル「ハリスコ新世代カルテル(CJNG)」をはじめとする麻薬密売組織によって何度も荒らされて住民が皆無となった。

 一帯には「立ち入り禁止」の標識が到るところに表示されており、メキシコメディア「Infobae」 によると、近隣住民はこの地所が現在CJNGの管理下にあると話している。また「軍の管理下にある」と説明する人々もいるようだ。

 メキシコの国立統計地理研究所(INEGI)のデータによると、トラホムルコ・デ・スニガには7万棟以上の放棄された住居施設があるという。

 このエリアは失踪事件が多いことでも有名で、廃屋内で人間の遺体が発見されることも珍しくない。ハリスコ州行方不明者特別検察局のデータによると、2018年12月以来、市内で150体以上の遺体が発見されている。

 さらに同じ期間に、行方不明者を捜索している団体が廃屋や空き地から598体の遺体を発掘した。これは全ハリスコ州で見つかった遺体のほぼ半数に相当する。そして今後の捜索でも多数の遺体が見つかることになるのは間違いないとみられる。

「Daily Star」の記事より

■犯罪組織が実効支配する“メキシコのチェルノブイリ”

 トラホムルコ・デ・ズーニガはグアダラハラからコリマに行く中継地であり、CJNGにとって最も重要な地域の一つであるという。

 2023年5月、メキシコ軍は同地のCJNGの隠れ家から女性を救出した。その1カ月後、ハリスコ州司法長官事務所と地元警察の6人の捜査官が、遺体を見つけるべく捜査しようとした際に団地エリアに仕掛けられた“罠”によって死亡する事件が起きている。

「Daily Star」の記事より

 2018年には同地で157人の死体が積まれたトレーラーが放置されていた。「El Financiero」紙の報道によれば、ハリスコ州検察が犯罪組織同士の抗争で死亡した身元不明の157人の死体を乗せたトレーラーを発見、確保した。団地の空き地に放置されたトレーラーはひどい腐敗臭が漂い血も流れ出ていたという。

 メキシコで最も危険な麻薬カルテルと考えられているCJNGは本格的に金融犯罪に取り組んでいるといわれ、インターポール(国際刑事警察機構)の監視対象にもなっている。

 インターポールによると、CJNGとその他の組織犯罪グループは、AI、大規模な言語モデル、仮想通貨を利用して「より高度で専門的な詐欺キャンペーン」を行っているという。またCJNGと他のラテンアメリカの犯罪組織が金融詐欺で連携している新たな証拠があるとも述べている。

 絶対に立ち入ってはならない場所である“メキシコのチェルノブイリ”に平和が訪れる日はやってくるのだろうか。戦時下ではないにもかかわらず犯罪組織が実効支配する地域がこの現代にも実際に存在しているのだ。

参考:「Daily Star」、「Infobae」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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