「私たちはもはや物理空間には存在しない」2020年以降、“人生に現実感がなくなった”理由とは

 コロナ禍は我々の生活様式やライフスタイルに多大な影響を及ぼしたが、2020年以降、特にミレニアル世代からは人生に「現実感」がなくなったと訴える声が増えているという。その理由と解決策をアメリカのコメディアンがSNSで解説している。

■「私たちはもはや物理空間には存在しない」

 アメリカのコメディアンのマイク・マンクーシは、4年前のパンデミックの始まり以来、多くの人々、特にミレニアル世代が自分の人生から現実感が失われている理由を説明した投稿を投稿し、TikTokとInstagramで多くの共感を呼んでいる。

「この現象の原因は、私たちがもう現実の生活を送っていないという事実です」とマンクーシは主張する。

「Upworthy」の記事より

「2020年は私たちの存在を携帯電話とデジタル世界に投げ込み、私たちはもはや物理空間には存在しません」(マンクーシ)

 彼は私たちの生活は今、より「ビデオゲーム」のように感じられ、自分たちの行動範囲の中での物事を気にするのではなく、「世界中の誰もが常に直面しているひどいこと」のすべてにさらされて影響を受けていると付け加えた。

「私たちは依然として有機的な存在であり、私たちの脳はこの人工装置に完全に接続されています。(この状態が続けば)私たちは最終的にはサイボーグになるでしょう」(マンクーシ)

 コロナ禍での“ステイホーム”で我々の多くはそれ以前よりもデジタルな世界で過ごす時間が増え、他者とのコミュニケーションもSNSなどで行うことがますます増えた。それまではかろうじて仕事に関しては対面での接触が基本であったが、コロナ禍以降はそれも“リモート”で問題ないという認識になっている。こうして我々の社会と対人交流は前代未聞のデジタル化を迎えているのだ。

 マンクーシは我々は休暇に出かけるときでも、依然として携帯電話が最優先事項であると指摘し、休暇中でも我々はSNSで何かを見逃しているのではないかと心配し、写真を撮って旅行をオンラインで共有しなければならないというプレッシャーを感じていると説明する。

「私たちはもはや実際に物理空間で生活しているのではなく、スマホを通して生活しているのです。これが、人生が現実のように感じられない理由です」とマンクーシは解説している。

「私たちの脳がこの装置内で起こっていることと完全につながることが習慣になっています」(マンクーシ)

 彼は現在の我々は皆、何らかの形のスマホ依存症に苦しんでいると確信している。

「(スマホは)脳の化学反応に大きな変化を引き起こす依存症です。行動を調整するプロセスは長く、困難な場合があります。4年間携帯電話を延々とスクロールし続けている場合、元の状態に戻るプロセスは長くなります」(マンクーシ)

 彼はスマホ依存症からの脱却はきわめて困難であると語る。なぜなら薬物依存症の治療のように完全に“断ち切る”ことが不可能だからだ。電話やネットがない生活は考えられないように、スマホは第一に実用品であることから“断ち切る”ことができないのだ。

画像は「Pixabay」より

■「物理的空間を楽しむために脳を再訓練する」

 ではそこに解決策はあるのか。マンクーシの結論は単純である。彼は「あなたはスマホ中毒だ」と指摘し、自分の物理的空間に戻ることが急務であると米ウェブメディア「Upworthy」に語る。

 そしてマンクーシは視聴者にスマホには「オフボタン」があるという単純な事実を指摘する。彼はスマホをオフにして現実に戻ることができると説明している。

「人々は自分の携帯電話との関係を再調整し、厳格な制限を組み込む必要があります。たとえば午前9時から12時の間はスクロールしません。妻と夕食に出かけるときは携帯電話を持っていきません。犬を公園に連れていくときも携帯電話は持っていきません。仕事中は携帯電話をブロックします」(マンクーシ)

画像は「Pixabay」より

 マンクーシは、我々が肉体的な生活に喜びを見つけるために脳を再訓練する必要があるという。スマホからすぐ簡単に得られるドーパミンのせいで、その喜びは失われているというのだ。

「(現在の)人間の脳は、不健康なことからのみ喜びを得るように配線されています。テクノロジー企業の幹部によって意図的に変更されたのです。物理的空間を楽しむために脳を再訓練するのは時間のかかるプロセスですが、それに投資する人にとっては、自分の幸福を自分と一致させれば、長期的には報われるでしょう。より健康的で具体的なもの、人生でやりたいことを見つけて、それを再び愛するように自分を再訓練してください」(マンクーシ)

 街中を見回してもコロナ禍以降はさらに“スマホ歩き”が増えているようにも思える。もはや“マトリックス”の世界が実現してしまっているような感もあるが、スマホの向こうにあるものと距離を置く生活を取り戻すのは今からでも遅くはないと信じたい。

参考:「LADbible」、「Upworthy」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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