不気味な山で消えた教師……白骨死体の数々、不気味なメモ、斧を振り回す男、すべてが謎に満ちた失踪事件

 定年退職後に趣味の山登りを満喫していた元教師に何が起こったのか。日帰りのハイキング登山に出かけたきり彼は行方不明になっているのだ――。

■日帰りの山登りに出て帰ってこない父親

 定年退職したばかりの北京の地理教師、レン・ティシェン氏(当時61歳)は2008年9月30日、妻に日帰りの山登りに行くと伝え、バックパックの中に弁当、水、その日の新聞、そしてメモパッドを持参し、北京のすぐ北西にある妙峰山(Mount Miaofeng)へと向かった。

 彼は経験豊富なハイカーであり、現役時代は生徒を引率してこの妙峰山を何度となく登っていた。

 妙峰山は彼にとっては勝手知ったる裏庭のような山であるため誰も何も気にすることはなかったが、夕食の時間になっても戻らない父親に家族の間には不穏な空気が漂いはじめた。明日の10月1日は母親の90歳の誕生日であり、母親思いのレン氏は一緒に祝うことを楽しみにしていたのである。

レン・ティシェン氏 「Daily Star」の記事より

 妻は夫の携帯電話に何度も連絡したのだが夫は出なかった。夫の友人に電話してみても誰も夫の行方を知る者はおらず、その日のうちに警察に連絡することになった。

 知らせを受けた警察によってすぐにレン氏の捜索ははじまった。

 レン氏の行方を占うものは何も見つからなかったものの、携帯電話の記録を調べることで手がかりが得られた。午後4時に誰かがレン氏に電話をして通話をしていたのだ。

 サービスプロバイダーによって、この電話がかかってきた時、レン氏の携帯電話が妙峰山の高い場所ではなく、山の麓近くにあったことが突き止められた。つまり午後4時の時点でほぼ下山していたことなる。

 電話の発信者はレン氏の友人で、その友人によればレン氏は帰宅途中であると話していたと証言している。少なくともこの時点で彼がまだ山中にいた可能性は低いことは裏付けられた。

 ちなみに妙峰山は手軽にハイキングができる山として人気で、日中は来訪客で賑やかな行楽スポットである。

 捜査の過程で、日中に妙峰山でレン氏と話をしたという行商人が見つかった。レン氏は行商人に質の良いナッツが売っている場所を尋ね、鉄陀山(Tietuo Mountain)だと教えるとすぐに向かっていったという。

 一緒に山を登ったことがある友人らによるとレン氏は人里離れた道を冒険する際に道に迷わないように、新聞紙をちぎったものを随所に置いてルートを確認するのが常であったという。

 この行商人の新たな証言により、警察は約30マイル離れた鉄陀山へ向かったのだが、案の定、そこには目印として木立に置かれた新聞紙の切れ端が見つかり、それはレン氏が持っていたのと同じ日付の同じ新聞であった。

 とすれば午後4時の時点で妙峰山をほぼ降りていたレン氏は、帰宅せずに鉄陀山へ向ったと考えられる。

「Daily Star」の記事より

■野宿の現場からメモが見つかる

 経験豊富で慎重なハイカーがなぜそのように突然計画を変更したのかは不明であるが、一帯を捜索すると恐ろしい発見があった。

 木の枝から灰色の布切れのようなものがぶら下がっていたのだが、調べてみるとこれはスウェットパンツで、なんとその中からバラバラになった白骨が出てきたのだ。

 骨は明らかに人骨で、誰かがこの地で集めた人骨をスウェットパンツに収めて木に結びつけたことになる。いったい誰が、何の目的でそんなことをするというのか。

 この木の近くには火を焚いた形跡が残っており、捜査当局はここでレン氏が野宿をしたのだと確信した。なぜならその近くの木の枝にぶら下がった封書に入ったメモが見つかったのだ。メモの筆跡はまず間違いなくレン氏のもので、そこには「第五中学校の元教師、レン・ティシェン氏は9月30日に鉄陀山に登り、帰りに道に迷い、山で一晩過ごした。10月1日正午、彼は念のためこのメモを残して、北東の七島村まで山の尾根を進む」と書かれていた。

レン氏の筆跡で書かれたメモ 「Daily Star」の記事より

 野営場所の周囲を捜索したところさらに恐ろしい発見が続くことになった。

 崖の下から人骨とぼろぼろの衣服の山が発見され、それは明らかに2年前に死亡した男女のものであった。捜査関係者らは、2人は偶然転落したか、あるいは心中を誓った恋人同士だった可能性があると述べている。2年前のことなので、もちろんレン氏の件とは関係はない。

 さらなる調査により、当日に2人のハイカーが山中で斧を振り回す物騒な男に出会い、男はハイカーに1人なのかどうかを尋ねてきたという証言が得られた。

 人骨で満たされた恐るべき洞窟も発見されたが、レン氏の失踪とは無関係である。木に結び付けられた人骨の入ったズボンも複数見つかった。

 その後、ボランティア捜査員の1人が急な坂道から落ちて重傷を負ったため、レン氏の捜索はいったん中止されることになった。

 散発的に再会された捜索で、2016年1月17日、さらに2体の白骨化した遺体が近くの別の洞窟で発見された。 遺体の1つは非常に古く、1940年前後の日中戦争の犠牲者である可能性が高く、もう1つは奇しくも2008年頃に死亡した人物のものだったが、衣服とDNAはレン氏とは一致しなかった。

 行方不明の元学校教師はいまだ見つかっておらず、事件は迷宮入りとなったが、何らかの手がかりを見つけようと、レン氏の親族や友人らが今も毎年集まって山を捜索しているという。

 ひょっとするとハイカーが出会った“斧を振り回す男”にレン氏は殺害されたのだろうか。しかしそもそもなぜレン氏は帰宅せずに鉄陀山へ向かったのか。そして探せば白骨遺体が続々と発見される鉄陀山の実態も不気味過ぎる。謎は深まるばかりだが、新たな展開が見られることがあるのかもしれない。

参考:「Daily Star」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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