古代エジプト最強の女神「セクメト」による殺戮神話『人類滅亡の物語』がエグすぎる! 本当は超怖いエジプト神話を徹底解説!

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ギザの三大ピラミッド 画像は「Wikipedia Commons」より引用

「人類は過去に一度、神の怒りや力によってほぼ絶滅した」と語る神話は世界中に存在しています。そして今回ご紹介する、約2000年前に滅亡した古代エジプトの神話も例に漏れず、神の意思によって人類が絶滅しかけた、という話が遺されているのです。

 大抵の神話において、人類滅亡は「世界をすべて洗い流す大洪水」や「神々の最終戦争」、「破壊と再生のサイクルの一環」などとして語られています。しかし古代エジプトの場合は相当内容が異なり、なんと美しい女神ただ1柱が地上で暴れまわり、人類を虐殺しているのです。

 古代エジプトの神話や神々を紹介する文献において、この人類虐殺神話には『人類滅亡の物語』という、非常に物騒なタイトルが付けられています。もともと付いていたものなのか、後世に付けられたものなのか不明ですが、その内容はタイトル通りのものであり、かつ他の神話には見られない、少々間抜けな天罰の動機も見られるのです。

■エジプトの人類虐殺譚「人類滅亡の物語」

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エジプトの太陽神ラー。ハヤブサの頭を持ち、その頭の上には大きな日輪が描かれる 画像は「Wikipedia Commons」より引用

 はるか昔、神話の時代、エジプトにおいて多くの神々は肉体を持ち、人間たちと共に暮らしていました。太陽神「ラー」は360年にもわたりファラオ(王様)として君臨し、世界を繁栄と幸せに導いていたといいます。

 ですが神とはいえ、肉体を持つということは人間と同様に加齢で衰えてしまう、という弊害がありました。人間の肉体のまま360年もの間ファラオの地位に就いていたラーは、すっかり衰え、よだれをぼたぼたと垂らすヨボヨボの痴呆老人と成り果てていたのです。

 人間たちは無様な姿を晒すラーを見て「もうろくジジイめ、いい加減に引退しろ」と言ったかどうかはわかりませんが、神話にはおおまかに「すっかり衰えたラーを見て、人間たちは神への敬意を失ってしまった」とあります。

 この人間たちの不敬に怒りを覚えたラーは、複数の神に「人間たちを懲らしめたい」と相談するのですが、ほとんどの神はそれに反対しました。ですが大地の神「ゲブ」だけは「人間など滅ぼしてしまえばよい」とラーを焚き付けたのです。

 数多くの神々から反対されたにも関わらず、ボケ老人と成り果てていたラーは、ただひとつの賛成意見を採用します。そして、ラーは自分の右目を自らの手でえぐり出し、それに憎悪や憤怒などさまざまな負の感情、さらには右目をえぐり出した激痛や怨念をありったけ詰め込んで、1柱の女神を創り出しました。これこそがエジプトの復讐と破壊の女神「セクメト」です。

■エジプト最強の破壊の女神セクメトの大虐殺

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セクメト女神を描いた壁画 画像は「Wikipedia Commons」より引用

 セクメト女神は「雌ライオンの頭を持つ、美しい女性の姿」という、エジプトの神話においてはさして珍しくもない外見でした。ただ一点異なるのは、セクメトという存在が「神に敬意を持たない人間たちを皆殺しにするため、太陽神ラーによって意図的に創られた破壊神」ということです。

 創造主であるラーは、セクメトに対して早速「世界中の人間を皆殺しにせよ」と命令します。元々そのためだけに、かつ太陽神の手で創造されたセクメトは非常に強く、ライオンの牙と鋭い爪でもって、地上の人間を手当たり次第に虐殺して回りました。

 セクメトが地上に降り立ってからというもの、人間は強大な神の力を前に為す術もなく次々に殺され、大地は血で真っ赤に染まり、セクメトは殺したての人間の亡骸から生き血をすすり続けます。

 このように、セクメトはラーの命令通り、毎日欠かさず大量の人間を殺し続けました。やがて生きている人間の方が少なくなり、人類は滅亡の危機に陥るのです。エジプトの一部の砂漠が赤いのは、セクメトが殺した人間の大量の血が染み込んでいるため、という伝承もあるほどです。

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セクメト 画像は「Wikipedia Commons」より引用

■ボケ老人のやりすぎた天罰

 ここまで追い詰められてようやく、他の神々は重い腰を上げました。セクメトを創ったラーに対して「いい加減にしないと人間がいなくなってしまう。人間が滅亡すれば、誰も我々を敬えなくなる。さらに地上はセクメトのせいで大混乱、今や誰も我々に対して供物や祈りを捧げていない」と、その責任を追求するのです。

 神話の文脈から読み取るに、ラー自身は人間に少しお灸をすえる程度に考えていたと見られます。また、他の神々から追求も受けたこともあってか、「さすがにやりすぎた」と後悔しはじめました。

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エジプトの砂漠が赤いのは、セクメトに殺された大量の人間の血が染み込んだため、という伝承がある。 画像は「Wikipedia Commons」より引用

 また、生みの親であるラー自身が、セクメトのあまりの残虐さを恐れはじめたこともあり、結局ラーはセクメトを呼び戻し「確かに人間を殺せ、と命じたが、これほどやれとは言っていない、もう十分だ」と諌めます。

 しかしセクメトは「私は世界中の人間を皆殺しにするためだけに、あなたが創り出した存在です。いまさら口出しなどされても後には退けませんし、何より人間を殺すのが楽しくてたまらないのです」と、人間の虐殺を止めようとはしなかったのです。

 このままでは本当に人類が滅亡してしまう、と慌てたラーは急いで神々を集め、セクメトを止める手段を考え始めます。というのも、太陽神ラーが全力を尽くして創り出しただけあって、セクメトの破壊と殺戮の力はあまりにも強く、全ての神々の力をもってしても、その動きを止めることすらままならなかったのです。

■生き血の代わりに赤いビール!?

 そうこうしている間にも、人間はセクメトによって次々に殺され続けており、ついに人類滅亡のカウントダウンがはじまります。とにかく何か手を打たなければ、と神々は一つの策に賭けることとなりました。

 神々と生き残ったわずかな人間たちは力を合わせ、麦と薬草から、真っ赤な色をした生き血にそっくりなビールを大量に作ります。そしてこれを生き血を好むセクメトに飲ませて、酔い潰れたところを捕縛しようという策です。

 相当にガバガバな作戦に思えますが、この策は見事に成功し、セクメトは血の色をしたビールを大量に呑み、酔いつぶれて寝てしまいます。その後は、詳しい方法こそ語られていませんが、セクメトが寝ている間に彼女の中から「人間に対する憎しみと殺戮衝動」だけが抜き取られ、人類滅亡という最悪のシナリオは回避されたといいます。

■「人類滅亡の物語」の後のセクメト女神

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セクメトの石像 画像は「Wikimedia Commons」より引用

 人間への憎しみと殺戮衝動を抜き取られた後のセクメトは、それでもなお復讐の女神であり続けていたのですが、母性豊かで優しい穏やかな性格の女神となり、エジプトの守護女神として大いに崇拝を集めたといいます。

 実は世界的に見られる信仰の形ですが、このように人間に害をなす強力な破壊や疫病の力を逆転して「強い守護の力」と捉えれば、その神は強い力で人々を守る守護神となるのです。

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アメン・ラーの像。太陽神ラーと習合された、おそらく習合された神としては最も知られた存在 画像は「Wikimedia Commons」より引用

 また当時のエジプトにおいては「習合」と呼ばれる、「●●という神は××という神と同じ存在である」という考え方が一般的でした。セクメト女神は「ラーの眼から創られた」という点から、ラーの眼に関連ある数多くの女神と関連付けられています。

 特に太陽神ラーは、非常に数多くの神と習合されています。おそらくですが「似ている神は合体させてより強大な力を持つ神とすれば、双方の信者を取り込め、神殿も共有可能となるうえ、同時に礼拝も簡単にできる」というような、合理的な考え方から行われていたものと思われます(エジプト神話においては、そのために信仰と伝承が失われた、現在では謎となった神が少なくないのですが……)。

 その一方で「無名の神を人気のある神と同一視することで、無名な神を持ち上げる」という意図から行われた、と思われる習合も見られます。こちらは古代ギリシャにおいて「自分たちの信仰する●●という神は、全知全能の神ゼウスと関係を持った愛人である」とすることでその威厳を高める図式とほぼ一致します。

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死者の書 画像は「Wikipedia」より引用

■神話伝承における「世界」とは

 さて、ここからは余談となりますが、神話や古い伝承、物語における「世界」とは、基本的にはそれを作った当時の人々が知る範囲での世界となります。

 例えば、以前の記事で紹介した、聖剣エクスカリバーが登場するアーサー王物語では、「アーサー王はローマ帝国と皇帝を打ち倒してローマ皇帝に即位、“世界を支配する王”となった」という記述が見られますし、世界各国の神話における国土創世譚でも同様に、その国の国土に関連するもののみが創られています。

 今回ご紹介した「人類滅亡の物語」における「世界」もまた、当時のエジプト人が知る限りでの「世界」という、非常に狭い範囲を指すものなのです。

 

※当記事は2017年の記事を再編集して掲載しています。

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文=たけしな竜美

オタク系サブカルチャー、心霊、廃墟、都市伝説、オカルト、神話伝承・史実、スマホアプリなど、雑多なジャンルで記事執筆、映像出演、漫画原作をしています。お仕事募集中です!

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