“本物の笑顔”とは… 顔面への電気刺激で笑顔の秘密を解明? 19世紀の奇抜な実験
19世紀、フランスの医師ギヨーム・デュシェンヌ・ド・ブローニュ(Guillaume Duchenne de Boulogne)は、電気刺激を用いた実験によって人間の表情のメカニズムを解明しようとしていた。当時の医療界では奇抜な試みと見なされていたが、その研究は後に神経学の基礎を築くことになる。
電気刺激で表情を作り出す実験
デュシェンヌの実験方法は、顔の特定の筋肉に電気を流し、どのような表情が生じるかを観察するというものだった。特に注目すべきは、彼が主な被験者として選んだ人物である。この被験者は歯がなく、顔の感覚がほぼ麻痺していたため、痛みを感じることなく実験を受けることができた。デュシェンヌにとっては「理想的な被験者」だったのだ。
彼はこの実験を通じて、顔のさまざまな表情を分類し、それを写真に記録した。そして彼の最大の発見の一つが、今日「デュシェンヌ・スマイル」として知られる「本物の笑顔」のメカニズムだった。
「本物の笑顔」とは何か?
デュシェンヌの研究によれば、本物の笑顔には口元だけでなく、目の周りの筋肉も関与することが不可欠だという。心からの笑顔では、口角が上がるだけでなく、目尻にもシワができる。これが「デュシェンヌ・スマイル」として知られる表情であり、現代でも心理学や感情研究で重要視されている。一方、口元だけを動かす笑顔は、作り笑いや社交辞令的な笑顔として認識されやすい。例えば、一部の有名人や企業のトップが笑っていても「どこか冷たく感じる」のは、この目の筋肉が動いていないことが原因かもしれない。
医学界に衝撃を与えたデュシェンヌ
デュシェンヌの実験は当時の医学界に波紋を広げた。彼は精神病院を拠点に研究を続けたが、多くの医師たちからは「顔に電気を流して実験するなど正気の沙汰ではない」と非難された。それでも彼の研究は医学的に非常に価値があると認められ、神経学の権威であるジャン=マルタン・シャルコーはデュシェンヌを「神経学の師」と称えた。また、チャールズ・ダーウィンも彼の研究を進化と感情の関係を論じる際に参考にしたという。
顔の表情は「神が与えた言語」
デュシェンヌは、表情の仕組みは単なる生理現象ではなく、神が人間に与えた「普遍的な言語」であると考えていた。彼は次のように記している。
「人の顔において、創造主は機械的な必要性を超えた存在であった。神はその英知によって、あるいは(この表現を許していただきたいが)神の遊び心によって、特定の筋肉を単独で、あるいはいくつかを同時に動かし、最も一瞬の感情ですら瞬時に顔に刻むことを可能にした。そして、この表情の言語が創造された後、すべての人間が本能的に同じ筋肉を収縮させることで感情を表現する能力を授かった。このことにより、この言語は普遍的かつ不変のものとなったのである」
要するに、神は人間に「表情で感情を伝える力」を与え、それをデュシェンヌが電気ショックを使って解読したというわけだ。
表情は単なる動きではなく、人類共通のメッセージ
デュシェンヌの研究は、今日でも心理学、神経学、さらには人工知能の表情認識技術にまで影響を与えている。彼の発見がなければ、笑顔がどのように感情を伝えるのかを科学的に理解することは難しかっただろう。
そして、私たちが誰かの笑顔を見たときに「本当に楽しそう」と思うのか、「どこか不気味」と感じるのかも、デュシェンヌの理論で説明できるのかもしれない。
参考:Boing Boing、ほか
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