アジアの極上恐怖「シンガポール怪談」“黒い油まみれの男”、“自殺者を引き寄せる穴”

※当記事は2022年の記事を再編集して掲載しています。

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画像はUnsplashMike Enerioより

 国際金融都市シンガポール――アジア最高峰の先進都市で働く人物・P氏に宗教・オカルトの専門家・神ノ國ヲが聞いた!

――シンガポールに住まわれて何年になりますか。

P氏  もう十数年になりますね。この十数年でシンガポールも随分変わりました。とくに経済的な発展は目覚ましいですが、あくまで表面的な変化だと思います。華人、マレー系、インド系、ユーラシアン(欧米人)が入り混じる多民族・複合国家ですから、欧米的な価値観が入ってきても元々ある言語・文化・宗教を上書きすることはできません。

――宗教事情はいかがですか?

P氏  私自身はよくある日本人的な「無宗教」ですね。シンガポールでは、華人は中国仏教や道教、マレー人はイスラム教、インド人はヒンズー教、そしてキリスト教はユーラシアンだけでなく多くの民族に信者を獲得しています。多宗教国家でもありますね。

■シンガポールの伝統的怪異

――伝統的なシンガポールの怪異といえば?

P氏  日本人が聞いてもまったく怖くないかもしれないのですが、「ハントゥ・テテ」と「オラン・ミニャック」でしょうか。ハントゥ・テテは意訳すれば「おっぱいお化け」で、巨大な胸で子供を隠してさらう妖怪なんです。夕暮れに子供が一人で遊んでいたらさらわれるよって、よくある話ですよね。元々はバリ島の魔女だともいわれます。別名で「ハントゥ・コペ(乳首お化け)」とも言われますね。

 オラン・ミニャックは意訳すると「油まみれ男」です。光る灼眼に禿げ頭、裸で全身を黒い油で覆われた悪魔です。もともとは人間で黒魔術によって愛を得ようとして悪魔と契約したが呪われてしまい、このような姿になったと伝えられています。若い女性の寝室に侵入して狼藉を働くそうですが、魔術的な黒い油によって、オラン・ミニャックは見ることも捕縛することも不可能だと言われています。

――現在の日本だと、むしろ喜ばれそうですね。

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画像は「singapore art museum」より引用

P氏  試しに検索してみてください。日本のアニメや漫画を好きな若者は東南アジアにも多いですから、恰好のネタになっていますよ。ハントゥ・テテは、一部男性の性癖に刺さりそうですし、元々はホラーなのに痴女扱いという意味では、今でいうネット上の「八尺様」のような扱いですよね。オラン・ミニャックはいわゆる非モテ男性のルサンチマンの具現化といいますか。興味深いと思います。

■天井を走り回る子供の霊、コピー機から印刷される「help」…!?

――お勤め先で怪奇現象が頻発中とか?

P氏  私が来たときから、天井を走り回る子供、誰もいないのに開閉し続けるエレベーター等は有名でした。私自身も天井を何かが這いずり回る音を聞いたことがあります。

 シンガポールは小さな島にある都市国家ですから、本当に土地がないんです。だから土葬のムスリムは大変なんですよ。ムスリムでなくても、墓地は一定年数を経たら1人から5人にまとめられるのも一般的です。つまり墓地の上に商業地やオフィス街を造成することがよくあるんです。たとえば、勤め先の近所にも、旧日本軍に粛清された人々の墓地が残っていたりしますが、三交代制勤務の工場で働く人々は「夜に働くと、どうしても何かを見てしまう」と言っていましたね。

――どんな怪異が現れますか?

P氏  まず弊社ですと「倉庫のおじさん」が有名です。倉庫の端になぜか一人おじさんがずっと立っているんだそうです。何も言わず、何をするわけでもなく。出入りの業者や従業員の誰もが目撃するものですから、少し騒ぎになりまして。結局「スーパーバイザーの一人だから無視して作業するように」という上司から苦し紛れの通達がありまして、無理やり解決となりました。

 私自身の体験ですと、同じフロアで働く同僚に声をかけたら、別の誰かが返事をしてきたことがあります。パーテーションで区切られているんですが、残業している中、同僚も仕事中だと思ったので「帰りに何か食べようね」と声をかけると「うーん」と返事があった。再び話かけても同じように返事があったんです。「じゃ、帰ろうか」と立ち上がってパーテーションの向こうを覗くと、誰もいないんです。ずっと前からフロアで残業しているのは私一人だったんですよ。え……と思って。こんな感じなので弊社では夜7時以降は、もう残業せずに皆帰ってしまうんです。

 あとは、かなり古い型のカラーコピー機がありまして。これも私がひとり残業していたときですが、このカラーコピー機が突然動き出して、印刷された紙が出てきました。そこには「help」って書いてあるんですよ。でも、当時の私は仕事に忙殺されており、幽霊よりも納期に遅れてクライアントに怒鳴られる方が怖いので「いや、助けてほしいのはこっちじゃ!」とその紙は丸めて捨ててしまいました。会社員ナメんな、と。

――宗教・民族が違っても同じ怪異を目撃しますか?

P氏  興味深いことに同じ現象に遭遇するんです。シンガポールでは山に立ち入る際、ムスリムなのに山の神に祈る人もいます。珍しいのかもしれませんが。理由を聞くと、「そうしないと足が逆向きの人が現れて怖いから」と。私からすれば、それの何が怖いの? と思うんですが。ただ確かなことは、怪奇現象に遭遇するのに民族・宗教・言語は関係ないようです。

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イメージ画像 Created with DALL·E

――シンガポールには有名な自殺の島があると…?

P氏  実は、正式な名前は言えません。以前ブログでシンガポールを揶揄した外国人が「国家侮辱罪」で追放されたという話も聞きますし。都市伝説とはいえ、名誉棄損になりかねませんから。

 ただ、自殺の名所となったその島には石材の採掘場跡地があり、その穴に雨水がたまって、どういう経緯か魚までいるそうです。しかも汽水域の魚です。それ自体も奇妙な話なんですが、そういった採掘場にある深い穴の一つが自殺の名所になっているんです。地元の人々は皆それを知っていて子供には「あそこに近づいちゃダメ」と厳しく言いつけるとか。

 ちなみにシンガポールでは、自殺は違法なんですよね。2019年に「自殺未遂は犯罪ではない」とする方向になりましたが、それまで自殺未遂は刑事罰の起訴対象だったです。ただ、自殺未遂した人を「犯罪者」にしてしまうと、また自殺しかねませんから、そのあたり、現在進行形で議論と法整備が進められています。

――なぜ、その島を選ぶのでしょうか?

P氏  実は、採掘場跡地の穴に溜まった淡水と海水の混じった水や、穴の深さに理由があるらしいのです。昼間にいくとものすごく青くて美しいそうですが、自殺に最適であると。つまり、自殺未遂が犯罪になるわけですから、助かってしまうと自分も大変だし、何より家族にも迷惑がかかってしまう。シンガポールでは三世帯同居家族が一般的ですし、儒教的な価値観の影響もあり、祖父母世代を敬い、両親の面倒は子供がみることも当然です。そんな社会環境ですから、飛び込むなら完璧に沈むほうがいいので、条件にあった穴が多いその島が選ばれるそうです。

 変化し続けるシンガポールですが、社会の表層的な流行と伝統的な価値観の板挟みになって、思い詰める人も多いのかもしれません。そういう暗い気分を、島の青く深い穴が呼び寄せて吸い込んでしまうのかもしれませんね。

――有名な心霊スポットはありますか?

P氏  心霊スポットといえば、ある最高級ホテルが有名ですね。歴史的な建築物を改装していた由緒ある建物です。シンガポールの歴史を代表する場所といっても過言ではありません。

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サムスイ(1938〜39頃)「National Museum of Singapore」より引用

 しかし、そのホテルのトイレにどうやら「サムスイの霊」が出るらしいんです。サムスイとは、中国系移民の女性労働者です。1934年から1938年にかけて集団で到着した、広東省出身・約2千人の未婚女性が起源だと言われています。当時の建設業界では一般的な労働者で、彼女らが身に着けていた赤い帽子と黒い作業着が特徴です。どんな因縁があるのか分かりませんが、現地シンガポールの人々にとっては公然の秘密、都市伝説として広く知られている話です。

――風水も盛んだと聞きました。

P氏  シンガポール人は風水好きだと言われています。もちろん公式には首相をはじめ否定するんです。しかし皆、裏では風水好きなんです。これも都市伝説ですが、ブギス駅の隣、北橋通り沿いの「パークビュー・スクエア」にまつわる噂があります。

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パークビュー・スクエア 「Wikipedia」より引用

 一見、美術館や博物館にも見えるのですが、基本的には複合商業オフィスビルです。たしか住友系の会社が開発に関わっていたように思います。このパークビュー・スクエアは、建物の前面に銅像を置き、悪い気の流入を防いでいるそうです。事実、同じ場所にある「ゲートウェイ・ビル」も風水を取り入れて建築されているとか。長年、このあたりは更地だったんですが、理由は悪い気がパークビュー・スクエアの土地に凝集するからと。たしかに、この20年間のシンガポールの経済発展を考えると、かなり異様な空き地だったのかもしれません。都市開発の最中、商機にして投機対象の土地が空き地だったんですから。さらに建築されたビルや施設も風水防壁を張り巡らしているとまで言われるので、よほどのことがあるのかもしれません。

――では、ゴースト・マンス(幽霊月間)とは?

P氏  華人の行事で、日本でいうところの「お盆」に当たるんですが、この期間がシンガポールでは長いんです。1カ月ほど、家族は戻ってくる死者への歓待、または人ならざるものへの警戒から外でドンチャン騒ぎをする習慣があるんです。そして、この宴会の際に参加人数よりも多く椅子を用意するんです。つまり、戻ってくる死者のための座席です。通りがかりの人や遠くからその宴会を見る人々は、だいたい「あぁ、満席の宴会で楽しそうだなぁ」と思うそうで。華人の行事ですから、通行人は無関係なマレー系やユーラシアンですよね。その彼らが本来は空席のはずの椅子に誰かが座っているのを見かけるそうです。

――それは興味深いですね。

P氏  シンガポール、凄く面白い国ですよ。良かったら一度来られませんか?(笑)

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文=神ノ國ヲ

学術論文からオカルト記事まで。
京都大学の博士課程に所属中。
Twitter:@kmnknw

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