読んだら後悔するほど怖い怪談「血蟲の村」 ― 消える家族、触れたら死、見てはいけない岩… 北九州“呪われた村”の実話(後編)
※当記事は2019年の記事を再編集して掲載しています。
血蟲の村(後)
斎川美津子さんの母(東北地方の巫女の家系出身だという)が『血蟲の呪い』と呼ぶ、一家に災いをなした呪いがかけられた発端は「家」だった。
美津子さんが小学6年生の頃に、彼女の両親は家を新築することにした。
それまで住んでいた家を取り壊して建て直すのではなく、集落内の別の所にまた新しく家を建てることにしたのだ。
この辺りでは「宮柱」と呼ばれる千年以上の歴史を持つ社家の一族の例に漏れず、美津子さんの父も集落内にそれなりに広い地所を有していた。
そこで、住み慣れた家で生活を続けながら、新しい家の竣工を待つことにしたわけだ。建設予定地は徒歩圏内だったから、進捗状況を見に行ったり、工事作業員の人々に差し入れを持っていったりすることも容易に出来る。美津子さんと姉が転校する必要もない。
地鎮祭は滞りなく行われた。この頃までは美津子さんたち家族は、ただもう、新しい家の竣工を楽しみにしていただけだった。父が祖父母から継いだ家は古く、現代の生活にマッチしているとは言えなかった。今度の家は住み心地を重視したモダンな建築だから、引っ越す日を4人全員が心待ちにしたのである。
やがて上棟式の日がやってきた。
このときまでに、美津子さんの母は、家の建築を任せた大工の親方――工務店の社長――に対して不満を持つようになっていた。
というのも、彼女が建設現場に労いに行くと、いつも親方は酔っ払っており、しらふでいたためしがなかったのだ。
美津子さんの母は、生来、生真面目で規律を重んじた。そういう人の常として、他人に対しても厳しかった。
従って当然この親方に対して嫌悪感を抱かざるを得なかった。
それにまた、彼女は真面目な性質だから、親方があんなようすでは作業員に示しがつかず、その結果、工事が杜撰になる恐れもあるし、第一、怪我でもされたら……と、ひどく気を揉んだ。
しかし親方の工務店は、この集落では老舗中の老舗であり、親方自身もルーツを辿れば宮柱の一族よりも古くからこの地に根づいていた杣人に辿りつくため、角を立てるようなことはおいそれとは出来ない。
それに、親方は粗野な雰囲気を漂わせる男であり、怒らせたらどうなることかと思うと、彼女が自ら動くことには躊躇があった。
そこで夫に「何かひとこと言ってやってくださいよ」とお願いしたのだが、曾祖父母の代よりもっと昔から地縁で繋がった相手と揉めたくないのは、美津子さんの父も同じか、それ以上だった。
また、父自身は新しい家の建設現場を訪れたことがなかったため、親方が仕事中に酔っ払っているところを目撃していなかった。
そこで彼は、妻の訴えを聞き流す方を選び、「早く親方に注意してください」と急かされるたびに適当な理由をつけて逃げ回った。
――そのうち上棟式を迎えることになってしまったわけである。
この日、親方は常にも増して酔っ払って登場した。上棟式の祝い酒に酔ったのではない。すでにだいぶきこしめしてから、やってきたのだ。
これには美津子さんの父も驚いた。
上棟式では、最初に、棟梁(親方)が幣串と破魔矢を棟木の高い場所に南向きで飾ることになっている。
ところが、酔っているため、親方はこれを首尾よく務めることができなかった。
時間をかけてようやく棟木に登ったが、幣串と破魔矢の飾り方もぞんざいで、見守っている方はかなり苛々させられた。
ことに美津子さんの父は、信心深い性質だったので、神聖な儀式を穢されたと思い、堪忍袋の緒が切れてしまった。
酒・塩・米を撒く「上棟の儀」が済み、宴会が始まると、彼は早速、親方に苦言を述べた。
すると、親方はいきなり激昂して、美津子さんの父に殴り掛かってきた。
弟子たちの前で叱られて、大いに誇りを傷つけられたのか。それとも、最初から苦々しく思っていたのか……。
住んでいるのとは別に、2軒目の家を建てるのは贅沢なことだ。それが宮柱の者の家なわけだから、面白くないと感じていた可能性がある。
美津子さんたち宮柱の一族の祖先は、先住者である杣人や百姓から土地を奪い、その代わりに文化と信仰をもたらした。宮柱一族と先住者との暮らし向きの格差は千年以上も固定化され、その結果、恨みと尊敬という相反する感情を住民の多くから向けられている。
結局のところ、居合わせた年寄り連中が親方をいさめ、美津子さんの父が非礼を親方に詫びて、一応、形だけは円く収まった。
だが、親方は反省したようすがなく、宴会が終わって立ち去る際に、再び憤怒の形相を浮かべて、美津子さんの父を睨みつけたのだという。
その後、家は無事に完成した。
引っ越しの当日、あらためて間近で見てみれば、こんどの家は本当に立派な木造家屋だった。また、前に二車線の道路はあるだけで家の三方を木立に囲まれているので、そうでなくとも広い庭が余計に広々と感じられ、景色が開放感に溢れていた。道路の向こうは深い山で、隣家からは数百メートルも離れており、周囲はとても静かだ。
太い柱に支えられた玄関は庇が深く、三和土は広々として、上がり框から続く艶やかな廊下は歪みがなく、少しも軋まなかった。
ところが、美津子さんは、一歩、足を踏み入れた途端に、家の中が暗すぎるような感じがした。
それも、物理的に暗いのではなく、屋内の景色全体に半透明の黒いフィルターをかけたかのような怪しい暗さだ。
彼女は激しくたじろいだ。突然、廊下を引き返して、玄関から外へ逃げ出したいような衝動すら覚えた。
それまでは待ちに待った引っ越しに胸を弾ませていたのである。
戸惑いつつ、傍らにいた姉を見やると、姉も沈んだ表情をしていた。
では両親は? と、思ったら、どうしたことか、父と母も少しも嬉しそうにしていない。
何かがおかしい……。
心の奥がざわめいて、不穏な気配が家の至るところにとぐろを巻いているような気がしてならなかったが、その日は夜まで家族全員で家の中を整える作業に専念した。
美津子さんと姉が床に就いたのは夜の11時過ぎだった。
姉妹の部屋と両親の寝室は2階にあった。美津子さんはすぐに寝入ってしまった。
……突然、大きな音が家中に鳴り響き、壁や天井を震わせた。
ガッ‼ バターン‼
鼓膜を殴られたように感じ、息が止まるほど驚いて跳ね起きた。が、何が起きたのかわからない。廊下に出てみると、同じく隣の部屋から飛び出してきた姉と鉢合わせしそうになった。
「お姉ちゃん! 今の音、何?」
「何だろう……」と、姉は顔を引き攣らせて呟いた。
「ドアが、開いたかと思ったら閉まるのが見えた……」
「お姉ちゃんの部屋のドアが?」
と、そこへ、両親も慌ただしい雰囲気で廊下へ出てきた。
「2人とも大丈夫か?」
「あんたたち、何かした?」
美津子さんと姉は顔を見合わせた。
「怪我とかはしてないよ、私も美津子も。びっくりしただけで。それに、なんにもしてない」と姉が答え、続けて、「私、部屋のドアが勝手に開いて、凄い勢いで閉まるところを見ちゃった」と言った。
すると、母が怯えた表情で口を開いた。
「お父さんと私も、自分たちの寝室のドアがひとりでに開いたかと思うと、乱暴に閉まるのを見たんだよ。……ねえ、2つの部屋のドアだけじゃないんじゃないかしら? だって物凄い音だったでしょう? 家のいろんなところ……1階からも、バターンと大きな音がして……。玄関やお勝手口も同じようになったんじゃないかしら」
そこで、全員で1階に下りて、玄関と裏口の状態を調べてみたところ、どちらも鍵とチェーンが開いていることがわかった。
いずれも、寝る前に施錠した上でチェーンが掛かっていることを父と母がそれぞれ確認していた。
何者かによって開錠され、おそらく同時に開けられて、また同時に勢いよく閉められた……?
そんなことは絶対に不可能だ。しかし、実際に起きたのだ。
ひとりでに物が動く怪奇現象は、この後も頻繁に発生した。
さっそく翌日には、食器棚の中で皿や茶碗がガチャガチャと騒ぐ、椅子が勝手に動くなどして、家族を驚かせた。
襖が開閉する、水道の蛇口が開けられるといったことも起きた。
昼夜を問わず、あまりにもしょっちゅう起こるので、こうした、いわゆるポルターガイスト現象には、しばらくすると家族全員が慣れてしまった。
不思議なことに、両親と姉、美津子さん以外の他人が家に居合わせると、怪異は鳴りを潜めるのだった。
また、引っ越してきてから、家族全員が体調を崩しがちになり、ことに美津子さんと姉については、原因不明の発熱や倦怠感に度々悩まされるようになった。
おまけに父が営んでいた事業も経営が傾いてきた。
「この家に来てから良いことがないね」と、母は美津子さんと姉にこぼすようになった。父がいるところではこういうことは言えなかった。この家を父は誇りにしていた。大金が掛かっており、時計の針を元に戻すことも叶わない。
「たまたま悪いことが重なっているだけだ」と父は断言し、最初はお祓いを受けることも許さなかった。
しかし、引っ越しから3年ほど経ち、家を増築することになり、再び地鎮祭を執り行おうとしたところ、やにわに空が掻き曇り、突如、強風が吹いてきて祭壇が爆発でもしたかのように一瞬で激しく壊れるという珍事が起きた。
白昼、父の親族でもある神主や、巫女も居合わせる中での出来事だった。
増築工事は、以前とは別の工務店に依頼して、進めてもらうことになったが、これで父の考えがあらたまり、家族全員で厄祓いしてもらった。
ところが、それでも怪異現象は一向に収まらなかった。
それどころか、新たにこんなことが頻々と起きるようになってしまった。
――ある日、学校から帰った美津子さんは、玄関から奥へ向かう廊下に母の姿を認め、「お母さん、ただいま」と呼びかけた。
しかし母は聞こえなかったようすで、奥へ奥へと歩いていってしまった。
その歩様が、なんだかいつもと違い、ずるりずるりと足を引き摺っていて鈍いので、美津子さんは気になり、「お母さん!」と尚も呼びながら急いで後を追った。
前に回り込んで表情を見ると、顔つきも普通ではない。
ぼんやりして、魂が抜けてしまったかのような無表情だ。
「やだ、どうしたの?」と話しかけながらついていって、一緒に居間に入った……と思った途端に、母の姿がスーッと薄くなって掻き消えた。
その直後、美津子さんの悲鳴を聞いて、台所の方から母が駆けつけた。
美津子さんが今見たことを説明すると、母はずっと台所にいたと言って、最初は美津子さんの話を信じなかったが、後日、今度は自身が美津子さんの幻を目撃して、信じるようになった。
美津子さんは、姉の幻にも遭遇した。
姉の幻も無表情で動きが遅く、煙のように掻き消えた。
この時期、家族4人とも、お互いの幻をそれぞれ少なくとも1回は見たが、幻の家族が出現するのは家の中に限られた。
同じ頃に、増築工事を任せている工務店の棟梁が、この家に使われている木材や工法などを調べるために訪ねてきた折に、玄関に異常があることを発見した。
「庇の支柱が4本とも逆柱だ! それにこれは相当な年代物だ。一般住宅の柱とも違う。元は神社か何かで使われていたものじゃないかと思う」
その場に立ち会っていた父は、これを聞いて青ざめた。
宮柱である彼は、この家を建てる少し前に、神社で古いお堂を取り壊したことを知っていた。そして、その工事を請け負ったのが、上棟式の日に喧嘩した親方の工務店だったのだ。
「あいつ、うちに呪いを掛けやがったな! そのせいで奇妙なことが起きたり、みんな病気がちになったりしているに違いない! 呪いの印が他にもあるかもしれないから、手分けして探そう!」
父の号令で、4人がかりで家中を点検しはじめた。
美津子さんは母と一緒に、懐中電灯を持って、屋根裏に上がった。
この家の屋根裏は物置として利用できる造りになっていたが、実際に使ったことはなく、引っ越した日に父がちょっと中を覗いただけで、足を踏み入れた者もなかった。
電気を引いてあったが、照明器具に電球を入れておらず、換気口からわずかな明かりが差し込むだけで、屋根裏は昼でも暗かった。
大型の懐中電灯で照らしながら、2人は慎重に奥へ入っていった。
やがて、美津子さんの懐中電灯の明かりが、床から天井まで突き抜ける四角柱を捉えた。美津子さんの胴回りよりも太そうな、逞しい柱だ。家の中心にあるようだ。
母がそれを見て、「この家の大黒柱だ」と言った。
美津子さんと母は、周りを廻りながら大黒柱を隈なく調べはじめた。四角柱の一面ずつ、上から下まで照らしていくのである。
最後の面を2人で見たときだ。
「あ、虫!」
真っ赤なムカデのようなものが、美津子さんの顔の高さで柱に貼りついていた。それは、彼女が懐中電灯で照らした途端、クネクネと動いた。
美津子さんは咄嗟に払い落そうとして、そちらに手を伸ばした。
するとその手の甲を母がピシャリと叩いた。
「触っちゃ駄目!」
「痛いなぁ。何も叩かなくても……。ああ、刺されるといけないから?」
「違う! よく見てみなさい! これは虫じゃなくて、血蟲だ!」
母の剣幕は尋常ではなく、また、非常に怯えているようなので、「チムシ?」と問いつつ、虫をよくよく観察すると、それはもう動いていなかった。
……いや、そもそも動くわけがないものだった。
鮮やかな赤い液体で柱に描かれた、ムカデともミミズともつかず、見ようによっては小さな蛇にも似ている、「蟲」の絵だったのだ。
「血蟲というのは、この辺りに伝わる呪いの術で、血でこれを描いて憎い相手に呪いを掛けるんだよ」
「何年も経つのに、血がこんなに赤いままなんてことがある?」
「呪いだから。触ったら死ぬかもしれない。大黒柱にこんなことをされたら、お終いだ。もうこの家は駄目かもしれない」
それから両親は家の呪いを解く方法を模索し、神社にも相談したようだが、血蟲の呪いを解くにせよ、玄関の柱を取り換えるにせよ、時間とお金が相当かかることがわかった。
しかも、呪いが解けるまで、我慢して住み続けることになる。
だったら、いっそのこと引っ越した方がいい――それにまた、問題の親方と同じ集落で暮らしつづけるのが耐え難いと母は訴えた。
親方を法的に訴えることも父は検討したようだった。しかし、宮柱である父よりも、親方の味方につく者の方がこの集落には多いかもしれず、事を荒立てた場合、かえって敵が増えてしまう可能性があった。
だからよその土地に移るしかないと母は主張し、美津子さんと姉も賛同した。
が、父は、宮柱の一員としてここを離れることは許されないと言い張った。
4人は何度も話し合った。
その夜も、夕食後に家族会議が開かれた。
8月半ばの熱帯夜だった。4人は1階の居間に集まり、ああでもない、こうでもないと議論していた。
居間には大きな掃き出し窓があり、このときは雨戸を閉めておらず、カーテンが開いていた。田舎であるせいか庭から訪ねてくる人が多く、また、人目を気にする必要もなかったので、ここのカーテンはもっと夜遅くなるまで開けておくのが習慣になっていたのだ。
話し合いは9時過ぎまで続いた。その後、お開きになって、各自、入浴したり、自室に引き揚げたりした。
翌日の午前10時頃、さっきからパトカーのサイレンが盛んに聞こえると思っていたところ、突然、刑事2人を伴って駐在所の警察官が家を訪ねてきた。
昨夜、この家の真ん前で事件があったので、家族全員から事情聴取したいと言われ、とりあえず、刑事たちを居間に通した。
美津子さんと姉も、居間に呼ばれた。
「昨夜8時から9時の間、皆さんはどちらにいらっしゃいましたか?」
そう質問され、父が代表して答えた。
「全員、この部屋におりましたが……」
すると「この部屋ですか?」と刑事は父に訊ねて、居間の窓から外を眺めた。
そのとき、庭越しに、前の道路に青い作業服を着た人々が何人もいるのが見えた。警察官も複数集まっている。
「ええ。この部屋に夕食後……たぶん7時半ぐらいから、9時10分か15分くらいまで集まって家族会議をしていました。その後も私はここで深夜までテレビを見ていました。……いったい何があったんです? そこで作業しているのは鑑識の人たちですか? 事件ですか? 事故ですか?」
刑事たちはその場では父の質問に答えず、その後、ひとりひとり個別に事情聴取を受けさせられた。
美津子さんは、昨夜、何か不審な物音を見たり聞いたりしなかったかと質問されたが、何も見なかったし聞かなかったと答えるしかなかった。
「いつもの習慣で、夜になっても居間のカーテンを開けっぱなしにしていたんですよ。でも、変わったものは何も見ませんでした」
「誰か訪ねてきませんでしたか?」
「いいえ。誰も」
「家の前に、自動車が停められていたことに気がつきませんでしたか?」
「……誰かうちの前まで車で来たんですか? 車が近くに来たら、音でわかりますよね。でも全然、エンジンの音なんかしませんでしたよ?」
「そんなはずがないんです。よく思い出してください。昨夜ですよ?」
「ええ。9時過ぎまで姉や両親と居間にいました」
「そのとき、居間の電気は点けていましたか?」
「えっ? 夜だから点けてましたよ! どうしてそんなことを訊くんですか?」
「明るくしていたなら、外から見たら、部屋の中までよく見えたでしょうね?」
「……だと思います。でも、そこの道路は、夜になると人なんか滅多に通らないし、来るとしたら近所の人だから、うちでは誰も外から居間のようすが見えるかどうかなんて気にしてません」
美津子さんは、わけがわからなかった。
刑事たちは、美津子さんと姉に今日は外出するなと命じて、両親を警察署に連れていってしまったので、不安な気持ちのまま、何時間も過ごさなければならなかった。
何が起きたのか明らかになったのは、結局、その日の夕方になってからだった。
両親が警察署から帰ってきて、そこで聞いたことを詳しく報告してくれたのだ。
それによると、昨夜の8時頃から9時頃の間に、家の真ん前の道路で人が殺されたのだという。
しかも、殺害現場は居間から見える場所なのだそうだ。
今朝早くに男性の遺体が近くの山林で発見され、容疑者の男もすぐに逮捕されたのだが、ここに車で連れてきて殺したと自供しているというのだ。
さらに、殺すのは容易なことではなく、怒鳴り合い、しばらく揉み合った末に出刃包丁で刺して、ぐったりした被害者を引き摺って、乗ってきた車のトランクに詰め、山に捨てにいった……と、容疑者が話しているとのことだった。
「犯人は、助手席に乗せた被害者をどこで殺そうかと考えながら車を走らせて、そうしたらここで大きな廃屋を見つけて、これなら敷地が広くて、隣の家から遠く離れているから、人を殺すのに向いていると思ったと自供しているそうだ。窓ガラスが割れていて、廃墟になっていた、と……。
でも、被害者が抵抗したため、庭中、追いかけ回した挙句、前の道路でとうとう殺したんだと。その間、怒鳴ったり悲鳴をあげたりと大騒ぎしたけれど、誰にも気づかれなかった。なぜならここは廃墟で、人が住んでいる気配もなかったから当たり前だったと話していて、何度訊問しても言うことがブレないそうなんだが……」
家の前の道路には大量の血痕が残っていた。
確かに、ここで殺人が行われたのだ。
この事件の直後、美津子さんたちは他所の町に引っ越した。
「引っ越しをする日の朝、起きたら、夜のうちに家の前の道路がぼっこりと陥没して大きな穴があいていました。まるで、出ていかせまいとするかのように……。
それで余計に、もう1日たりともここにはいられないと家族全員震えあがって、大急ぎで支度をして、家の外に出たんです。
そうしたら、そのとき、私たちの足の間を縫うように、大きな鼠が一匹、廊下の奥から玄関を通って、外へ駆け抜けていったんですよ……。
もう二度とあそこには戻りたくありません。父は宮柱としての務めがあるからと行事の度に帰郷していますが、よく平気だなと思います。
……あの親方ですか?
なんでも、私たちが出ていった後、いくらも経たずに、亡くなったそうですよ」
(了)
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2024.10.02 20:00心霊読んだら後悔するほど怖い怪談「血蟲の村」 ― 消える家族、触れたら死、見てはいけない岩… 北九州“呪われた村”の実話(後編)のページです。呪い、怪談、北九州、実話怪談などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで