世界で最も孤独な男「穴の男」 – 虐殺、30年の潜伏、そして静かな最期… 現代に残された痛切な物語

画像は「LADbible」より

 少なくとも26年間、誰とも関わらずにジャングルの中で暮らした「世界で最も孤独な男」とは? その背後には絶望的な悲劇のストーリーがあった――。

■30年以上ジャングルで孤独に暮らした最後の部族民

 1996年、ブラジル当局はロンドニア州のジャングルの中で、誰かが一人で暮らしている気配を察知した。

 ジャングルを捜索した者は何度か遠巻きに男性の姿を目撃し、確かに彼がここで一人で暮らしていることを確認した。なぜジャングルの中で一人で暮らしているのか。

 浅黒い肌の筋肉質で痩せた体つきの彼は機敏な身体の動きを見せ、竹でできた弓矢を装備していた。大きめのオノで木を切ることもあった。

 彼はほとんどの時間を愛用の弓矢で鳥や猿、豚を狩ることに費やし、小屋の周りではトウモロコシやパパイヤを育てていた。

 また動物を捕らえるために地面にいくつか深い穴を掘り罠を仕掛けていた。ほかには宗教的な意味合いがありそうなオーナメントなどもあった。

 2018年にブラジル当局が彼の暮らしぶりの撮影に成功したことで、彼の存在が世界に知られることになる。

 映像では半裸の男性が手製のオノで木を切り倒している最中、カメラ気づいたのかレンズを一瞥してから立ち去っていく様子が収録されている。

 数十年にわたり誰とも交流せず完全な孤独の中で暮らしていた男性は、2022年8月にヤシの葉で葺いた住居の外のハンモックに横たわっている姿の遺体で発見された。自然死であった。1996年に存在が判明して以来、少なくとも26年間は完全な孤独にあったことになる。おそらく優に30年以上は天涯孤独だったのではないだろうか。まさに「世界で最も孤独な男」である。

画像は「LADbible」より

 1980年代から1990年代にかけてアマゾンでは強引な農地開発が行われており、違法な経営者らによって少数部族が一掃されたと考えられている。彼はそうした虐殺の生き残りであることは明らかであった。

「部族最後の生き残り」や「穴の男」として知られる彼は、部族を全滅させた極悪非道な虐殺の唯一の生存者となり、自力で生き延びることを余儀なくされたのだ。

 彼は人間との接触を頑なに拒否することから、先住民族問題担当官は孤独な生活を送りたいという彼の意思を尊重し、彼を守るために特別区域と保護区を設置したのだ。

 先住民の権利を訴える団体「サバイバル・インターナショナル」は、彼を「ほとんどの人に忘れられた大量虐殺の犠牲者」であると定義し、「恐ろしい暴力と驚くべき回復力」の象徴だと評している。

 おそらく感じていたであろう孤独感にひるむことなく、彼は狩りをし、道具を作り、さらにはヤシの木で家を建てるなどして環境に適応した。

 彼の悲劇的な最期は、人間の回復力と生存本能、そして彼の部族の文化遺産を体現したものであったが、残念ながらこれで永久に失われることになった。アマゾンで起きたこの悲劇が忘れ去られてはならない。

参考:「LADbible」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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