深海に響く謎の“女性の声” 25年間、未解決だった「ジュリア」は地球からの“悲鳴”だったのか

地球の7割以上を覆い、その80%以上が未踏のままである広大な海。そこには私たちの想像を絶する無数の謎が眠っている。そして今から25年前、太平洋の深淵で、一つの奇妙な音が記録された。その名は「ジュリア」。まるで女性の物悲しいハミングのようにも聞こえるこの音は、一体何だったのか。科学が導き出した答えと、今なお人々を魅了してやまない海の神秘に迫る。
太平洋の底で誰かが歌っていた?
事件が起きたのは、1999年3月1日のこと。アメリカ海洋大気庁(NOAA)が太平洋の赤道付近に設置した水中マイク(ハイドロフォン)が、その音を捉えた。約2分43秒にわたって続いたその音は、あまりに強力で、太平洋全域の観測網で検出されるほどだった。
録音された音は、そのままでは人間の耳には聞こえない超低周波音だった。しかし、研究者たちが音声を16倍速で再生した時、そこに現れたのは、まるで女性がハミングしているかのような、不気味で物悲しい響きだった。このことから、この謎の音は「ジュリア」と名付けられた。
この音が公開されると、世界中のミステリー愛好家やネットユーザーたちの想像力に火をつけた。「Tレックスは絶滅していなかった」「伝説の巨大生物クラーケンの鳴き声だ」「いや、エイリアンの宇宙船に違いない」。様々な憶測が飛び交い、「ジュリア」は海洋ミステリーの象徴的存在となったのだ。
科学が解き明かす“声”の正体
人々のロマンあふれる憶測とは裏腹に、NOAAの科学者たちは冷静な分析を進めていた。そして、彼らが導き出した最も有力な説は、「巨大な氷山が海底に座礁した音」、すなわちアイスクェイク(氷震)であるというものだった。
氷山が海底の岩や土を削る際に発する、きしむような巨大な摩擦音。それが、何千キロもの距離を伝わって記録されたのではないか、というのだ。では、なぜそれが「女性の声」に聞こえるのか?
その秘密は、16倍速再生にある。元の音は、人間には聞こえない20Hz以下の超低周波音だ。例えば、元の音が10Hzだったとすると、16倍速で再生することで周波数は160Hzにまで上昇する。これは、女性の声の周波数帯(約165Hz~255Hz)に非常に近い。つまり、「ジュリア」の不気味な響きは、周波数シフトが生み出した偶然の産物だったのである。
実際、1997年に記録された、さらに強力な謎の音「ブループ(Bloop)」も、現在では同様にアイスクェイクが原因とされている。「ジュリア」は、決して唯一無二の怪奇現象ではなかったのだ。
“ジュリア”が私たちに問いかけるもの
科学的な説明がなされた今もなお、「ジュリア」が人々の心を捉えて離さないのはなぜだろうか。それは、この音が海の神秘性と、私たちが直面する地球規模の課題の両方を象徴しているからかもしれない。
2019年、海洋保護団体「Surfers Against Sewage」は、この「ジュリア」の音声をキャンペーンに使用し、海の環境保護の重要性を訴えた。未知の深海から聞こえる物悲しい声は、人間の活動によって脅かされている海洋生態系の悲鳴のようにも聞こえる。
近年、気候変動の影響で南極の氷床の融解は加速している。これは、今後「ジュリア」のようなアイスクェイクが、さらに頻繁に発生する可能性を示唆している。かつては単なるミステリーとして語られた謎の音が、今や地球の健康状態を測るバロメーターとなりつつあるのだ。

海の謎は、まだ終わらない
巨大な氷山が奏でた、壮大な地球のきしみ――。それが、謎の音「ジュリア」の最も可能性の高い正体なのだろう。それは、クラーケンや古代生物の生き残りに比べれば、ずっと現実的で、少しだけロマンに欠ける結論かもしれない。
しかし、25年経った今も、海の8割以上が私たちの知らない未知の世界であることに変わりはない。科学がその正体を解き明かしてもなお、「ジュリア」という音の響きは、深海の暗闇の向こう側への想像力をかき立てる。
もしかしたら、この音に耳を澄ますことは、地球そのものの声に耳を傾けることなのかもしれない。海の謎は、まだ始まったばかりのようだ。
参考:Surfer、NOAA PMEL Acoustics Program、Wikipedia、ほか
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2024.10.02 20:00心霊深海に響く謎の“女性の声” 25年間、未解決だった「ジュリア」は地球からの“悲鳴”だったのかのページです。深海、声、NOAAなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで