【100年の謎】ドイツ史上“最も不気味な未解決事件”一家6人が殺害された「ヒンターカイフェック事件」とは

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ヒンターカイフェック牧場、南からの眺め Photo by Andreas Biegleder (Public Domain) | OriginalWikimedia Commons

 1922年、ドイツ・バイエルン州の片田舎で、一家5人とメイド1人全員が惨殺されるという凄惨な事件が起きました。犯人は殺害後、数日間にわたり農場に留まり、家畜の世話までしていたという信じがたい痕跡を残します。これは「ヒンターカイフェック事件」として知られ、100年以上が経過した今なお、ドイツ犯罪史上最も謎めいた未解決事件として人々の心を捉えてやみません。

 この記事では、事件の全貌、不可解な謎、有力な容疑者たち、そしてなぜこの事件が今もなお語り継がれるのか、その深い闇に迫ります。

事件の舞台:孤立した農場と複雑な一家

 事件現場となった「ヒンターカイフェック農場」は、ミュンヘンから北へ約70km、森の近くにぽつんと佇む一軒家でした。「カイフェック集落の奥にある(hinter)」ことからその名で呼ばれ、人目につきにくい孤立した場所でした。

 被害者は、この農場に暮らす以下の6名です。

・アンドレアス・グルーバー(63歳): 農場主。強権的で、実の娘と近親相姦の罪で有罪判決を受けた過去を持つと言われています。
・ツェツィーリア・グルーバー(72歳): アンドレアスの妻。
・ヴィクトリア・ガブリエル(35歳): 夫妻の娘。夫を戦争で亡くした未亡人。父との不適切な関係が噂されていた。
・ツェツィーリア・ガブリエル(7歳): ヴィクトリアの娘。
・ヨーゼフ・ガブリエル(2歳): ヴィクトリアの息子。父親が誰であるか、様々な憶測を呼んでいた。
・マリア・バウムガルトナー(44歳): 新しく雇われたメイド。事件当日に農場へ到着したばかりだった。

 グルーバー家は裕福でしたが、近所付き合いはほとんどなく、特に父娘の近親相姦スキャンダルは公然の秘密となり、村人からは奇異の目で見られていました。この閉鎖的で複雑な家庭環境が、事件の謎を一層深めることになります。

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住宅兼馬小屋 Photo by Unknown author (Public Domain) | OriginalWikimedia Commons

惨劇の前兆:屋根裏の足音と雪の上の足跡

 事件発生前から、農場では数々の不可解な出来事が起きていました。これらは、後に惨劇の前兆として語られることになります。

幽霊屋敷の噂: 事件の半年前、前のメイドが「屋根裏から奇妙な物音がする。この家には幽霊がいる」と怯えて辞めていた。
謎の新聞: 家族の誰も買った覚えのないミュンヘンの新聞が、ある日突然屋敷内に置かれていた。
片道だけの足跡: 事件直前、アンドレアスは雪の上に森から農場へ続く片道だけの足跡を発見。家に戻る足跡はどこにもなかった。
鍵の紛失: 家の鍵束から一本の鍵が忽然と消えていた。

 アンドレアスはこれらの異変に気づきながらも警察に届け出ることはありませんでした。この判断が一家の運命を決定づけてしまったのかもしれません。

惨劇の夜と奇妙な犯人像

 1922年3月31日の夜、惨劇は起こりました。犯人はまず、アンドレアス、妻ツェツィーリア、娘ヴィクトリア、孫娘ツェツィーリアの4人を、何らかの方法で一人ずつ納屋へとおびき出し、つるはしで撲殺。その後、家の中へ侵入し、寝室で眠っていた2歳のヨーゼフと新任メイドのマリアも殺害しました。

 遺体は発見されにくいよう、納屋では干し草が、家の中では寝具や衣服がかけられていました。

 しかし、犯人の行動で最も不可解なのは、犯行後の振る舞いです。犯人は6人を殺害した後も、4月4日の遺体発見までの数日間、農場に留まり続けていたのです。

家畜の世話: 牛や鶏にエサが与えられていた。
食事の痕跡: 家にあったパンが食べられ、肉が切り取られていた。
暖炉の使用: 近隣住民が、事件後の数日間、農場の煙突から煙が上がっているのを目撃していた。

 犯人はまるで自分がこの家の主であるかのように振る舞い、日常を続けていました。金品にはほとんど手が付けられておらず、強盗目的ではないことは明らかでした。この異常な行動は、犯人像を特定する上で捜査陣を大いに混乱させました。

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イメージ画像 Created with AI image generation (OpenAI)

迷宮入りした捜査と浮かび上がる容疑者たち

 事件発覚後、ミュンヘン警察が捜査に乗り出しましたが、1920年代の科学捜査には限界がありました。現場は野次馬によって荒らされ、指紋採取も行われず、貴重な証拠の多くが失われました。

 捜査線上に浮かんだ有力な容疑者は数多くいましたが、いずれも決定的な証拠はなく、事件は迷宮入りします。

ローレンツ・シュリッテンバウアー(隣人農夫): ヴィクトリアの元愛人で、遺体の第一発見者の一人。遺体発見時に他の2人と訪れましたが、遺体を動かすなど不審とされる行動をとったため疑われました。しかしアリバイがあり起訴には至りませんでした。彼は生涯にわたり「犯人」という汚名に苦しめられました。

カール・ガブリエル(ヴィクトリアの夫): 第一次世界大戦で戦死したとされる夫。実は生きていて、妻の不貞を知り一家を皆殺しにしたのでは、という説。しかし、戦友たちの証言から生存の可能性は低いと結論付けられました。

その他の容疑者: 過去に農場で働いていた者、窃盗の前科がある者、近隣のならず者など、100人以上が捜査対象となりましたが、誰一人として犯人と特定することはできませんでした。

 近年では、アメリカで同様の一家惨殺事件を繰り返した連続殺人鬼「ポール・ミューラー」が、故郷ドイツに戻って犯行に及んだのではないか、という新説も提唱されていますが、これも推測の域を出ていません。

事件のその後:語り継がれる伝説と消えた頭蓋骨

 事件後、忌まわしい記憶を消すため、ヒンターカイフェック農場は1923年に取り壊されました。現在、跡地には犠牲者を悼む小さな慰霊碑が静かに佇んでいます。

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事件現場にある被害者の慰霊碑 Andreas Keller — Own work. Copyrighted free use. Source

 しかし、この事件にはさらに悲しく、不気味な後日談があります。検視のため切断された被害者6人の頭蓋骨は、霊能者による鑑定なども試みられたものの、第二次世界大戦の混乱の中で全て行方不明となってしまったのです。そのため、ワイトホーフェンの墓地に眠る被害者たちの亡骸には、今も頭部がありません。

 事件はその残虐性と謎に満ちた背景から、多くの小説や映画の題材となりました。特に、アンドレア・マリア・シェンケルによる小説『谷間の農場(Tannöd)』はベストセラーとなり、事件を世界に知らしめました。地元では、事件現場を巡る「灯籠ツアー」が開催されるなど、ヒンターカイフェックは悲劇の現場であると同時に、ダークツーリズムの対象としても注目を集め続けています。

なぜ事件は未解決のままなのか?

 ヒンターカイフェック事件が100年以上も未解決である理由は、主に以下の3つに集約されます。

不十分な初期捜査: 現代の科学捜査とは比べ物にならない当時の捜査技術と、現場保存の失敗。
物的証拠の欠如: 犯人に直接結びつく証拠がなく、重要証拠だった頭蓋骨や捜査資料も失われた。
関係者の死去: 容疑者や関係者の多くが亡くなり、真相を聞き出す術がなくなった。

 2007年、ドイツの警察学校が最新の科学技術を用いてこの事件を再分析するプロジェクトを行いました。報告書では、「犯人について全員一致の結論を得た」としながらも、「犯人の遺族への配慮から、その名前を公表することはない」と結論付けられています。

 真犯人の名は、おそらく永遠に公式に明かされることはないでしょう。

 ヒンターカイフェック事件は、単なる未解決事件ではありません。人間の心の闇、閉鎖的な村社会、そして戦争が落とした影が複雑に絡み合い生まれた悲劇です。真実は深い闇の中に葬られ、答えのない問いだけが、100年の時を超えて私たちに語りかけてくるのです。

参考:Wikipedia(en)Wikipedia(de)hinterkaifeck.ch、ほか

文=ヨミノ・ユナ

神奈川県在住の主婦ライター。得意ジャンルは都市伝説、オカルト、ネット文化、歴史ミステリー。子育ての傍ら、深夜にネットサーフィンをする中で出会った不思議な話を探求するのが趣味。タイムトラベルやパラレルワールド系のSFが大好物。

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