【未解決事件】アメリカを震撼させた「タイレノール連続毒殺事件」とは

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 1982年、アメリカ・シカゴを中心に起こった「タイレノール事件」は、日常的な医薬品を利用した前代未聞の連続殺人事件であり、現代の製品安全制度に大きな影響を与えた。誰もが安心して手にする薬が、命を奪う凶器に変貌したこの事件は、いまだ真相が明かされていない未解決事件である。

きっかけは12歳の少女の突然死

 事件は1982年9月29日、イリノイ州エルクグローブ村で始まった。風邪を引いていた12歳の少女メアリー・ケラーマンが、「エクストラ・ストレングス・タイレノール」を服用後に突然倒れ、病院で死亡したのだ。服用したのは彼女の両親が前日に購入したばかりのボトルであった。

 この段階では死因は不明だったが、同日中にアーリントンハイツでアダム・ヤナスという男性もタイレノールを服用後に死亡。さらに彼の見舞いに訪れていた弟スタンリーとその妻テリーも、同じ薬を服用して倒れた。スタンリーは即死し、テリーは数日後に死亡した。

一連の死の共通点が「タイレノール」であると気づいた公衆衛生看護師のヘレン・ジェンセンは、ヤナス家に残されていたボトルとレシートを確認。これは偶然ではないと確信した。

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By Austin KirkTylenol Pills, CC BY 2.0, Link

死をもたらしたのは猛毒「青酸カリ」

 その後も死亡者は相次ぎ、フライトアテンダントのパウラ・プリンス(35)、メアリー・マクファーランド(31)、メアリー・ライナー(27)が死亡。すべてに共通していたのが、同じ市販薬タイレノールのカプセルだった。

 調査の結果、薬の中には青酸カリが混入されていたことが明らかになる。カプセルは1錠あたり最大610ミリグラムの青酸カリを含んでいたとされ、これは致死量の3倍以上。製造段階ではなく、市販後に何者かが店頭の商品に毒を混入させたことが判明する。

 9月30日、保健当局は「タイレノールを服用しないように」と警告。ジョンソン・エンド・ジョンソン社はすぐに全米で3100万本を自主回収し、100億円規模の損失を被る結果となった。

疑われた男たちと謎の脅迫文

 事件直後、同社には「毒入りカプセルを止めたければ100万ドルを支払え」との脅迫文が届く。筆跡や使用された郵便メーターからニューヨーク在住のジェームズ・ルイスが容疑者として浮上した。彼は以前にも殺人事件で疑われたことがある人物であり、さらに毒物関連の書籍に指紋が残されていた。

 しかし決定的証拠はなく、彼は恐喝罪で13年服役するに留まった。彼がシカゴにいた形跡はなく、毒入りのボトルに彼のDNAも残っていなかったため、殺人罪での立件は見送られた。別の容疑者ロジャー・アーノルドも疑われたが、無関係であると判明。ただし、誤認された怒りから別人を射殺するという凶行に出ている。

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社会が受けた衝撃と制度の変革

 この事件を機に、アメリカ国内の製品安全管理は劇的に変化した。1986年には「製品改ざん防止法(Federal Anti-Tampering Act)」が成立し、製品への悪意ある混入行為は連邦犯罪として厳罰化された。

 また、薬品や食品のパッケージには封印シールや改ざん防止機構が導入されるようになった。事件前には紙箱とプラスチックキャップだけだったパッケージは、密封された安全構造へと進化。今日当たり前となっている「開封済みかどうかが一目でわかる包装」は、まさにこの事件の教訓から生まれた仕組みである。

“国内テロ”としての評価と今も続く捜査

 この事件は、犯人の正体がいまだ不明であるにもかかわらず、現代における最初の「国内テロ」として捉えられることが多い。捜査に関わった警察関係者は「犯人はアメリカ社会に恐怖を植えつけ、国家をひざまずかせる意図があったのかもしれない」と証言している。

 この一件は、後年の模倣事件をも誘発した。1986年にはワシントン州で女性が夫に保険金目的で毒入り鎮痛剤を与え、さらに別の無関係な人物にも死をもたらした。これが「改ざん防止法」に基づく初の有罪判決となった。

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UnsplashErik Mcleanより

タイレノール事件が残した教訓

 この事件をきっかけに、消費者の「信頼」と「安全」は再定義された。誰もが日常的に使う製品が、見えない凶器と化す可能性を社会全体が学んだのだ。

 タイレノール事件は、ただの未解決事件ではない。製品安全の脆弱さと、それを悪用することの恐ろしさ、そして法と制度によって社会がどのようにそれに対応してきたかを浮き彫りにした、現代社会の転換点の一つだった。

 犯人はいまだ捕まっておらず、事件の全貌はいまだ謎に包まれている。それでも私たちの手元にある“安全な薬”は、この忌まわしい事件の犠牲者たちが遺した尊い警鐘の上に成り立っていることを、忘れてはならない。

参考:Mental Floss、ほか

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