地球へ向かう「宇宙船」騒動、その真相は科学者の“おふざけ”だった ― 謎の天体「3I/ATLAS」の正体とは

「地球にエイリアンの宇宙船が向かっている」―。そんな衝撃的な噂がSNSを駆け巡り、世界中が一時騒然となった。発端は、ハーバード大学の著名な天体物理学者らが発表した一本の論文。しかし、この宇宙規模のパニックの裏には、科学者たちのちょっとした「お遊び」があったことが明らかになった。
渦中の天体は、2025年7月1日に発見された恒星間天体「3I/ATLAS」。太陽系の外から飛来したこの謎多き訪問者の正体とは、一体何なのだろうか。
「これは宇宙人の技術か?」一本の論文が招いた大混乱
騒動の火種となったのは、ハーバード大学の天体物理学者アヴィ・ローブ氏らが発表した「恒星間天体3I/ATLASは地球外生命体の技術か?」と題された論文であった。
この扇情的なタイトルは、ネット上で瞬く間に拡散。「宇宙人の乗り物に違いない」「宇宙からの侵略が始まる」といった憶測が飛び交い、あるX(旧Twitter)の投稿は100万回以上も表示されるなど、陰謀論は燃え広がった。
しかし、論文の著者たち自身は、この物体が人工物であるとは考えていなかった。彼らは後に、この問いかけを「思考実験として楽しむため」だったと認めている。論文で述べられていた「11月までに地球に到達するシナリオ」も、実際の追跡データに基づくものではなく、あくまで「もしエイリアンの宇宙船なら、太陽や木星の重力を利用してこんな軌道変更も可能だろう」という仮説に過ぎなかったのだ。
NASAと欧州宇宙機関(ESA)は早々に、「3I/ATLAS」は宇宙戦艦ではなくただの恒星間彗星であり、地球に危険を及ぼすことはないと公式に発表。騒動は科学者たちの“おふざけ”が招いた空騒ぎとして、ひとまずの決着を見た。
それでも残る謎―変色し、奇妙な物質を放出する天体
しかし、「3I/ATLAS」が単なる彗星で片付けられない、奇妙な特徴を持っていることもまた事実である。
オーストリアの天文学者チームが2025年9月7日に撮影した最新の画像では、3I/ATLASがその姿と色を劇的に変化させていることが明らかになった。かつては赤みを帯びて輝いていたのが、最近では緑色に変化しているというのだ。
ハーバード大学のローブ氏は、この色の変化が、天体から放出されるシアン(青酸)の急増によるものだと指摘する。実際に、超大型望遠鏡(VLT)の観測では、3I/ATLASが毎秒20グラムものシアンを放出していることが確認されている。
さらに不可解なのは、この天体が鉄を伴わない「ニッケル」を放出している点だ。自然の彗星は、ニッケルを放出する際には必ず鉄も一緒に放出する。鉄を含まないニッケルは、工業的なニッケル合金の精錬過程で見られる特徴であり、「これは3I/ATLASが人工物である可能性を示す、もう一つの手がかりではないか?」とローブ氏は問いかける。

過去の訪問者たちとの比較
過去に太陽系を訪れた恒星間天体と比べても、3I/ATLASの特異性は際立っている。
2017年に観測された最初の恒星間天体「オウムアムア」は、ガスや塵を一切放出しない謎の岩石だった。2番目の「ボリソフ」は、典型的な彗星の振る舞いを見せた。しかし、3番目の訪問者である3I/ATLASは、極端な色の変化、奇妙な物質の放出、そして巨大なコマ(彗星の核を取り巻くガス)など、ユニークな特徴をいくつも見せている。
オーストリアの天文学者チームは、「この天体は何十億年も宇宙空間を旅する中で、放射線によって厚い殻が形成され、それが今になって壊れ始めているだけだ」と、ローブ氏の宇宙船説を一蹴している。

3I/ATLASは、2025年12月19日に地球に最も接近するが、その距離は約2億7000万kmと、火星までの距離とほぼ同じであり、危険はない。しかし、この謎多き天体が、我々の前でこれからどのような姿を見せてくれるのか。科学者たちの「お遊び」から始まったこの騒動は、まだ終わってはいないのかもしれない。
参考:Daily Star、Daily Mail Online、ほか
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2024.10.02 20:00心霊地球へ向かう「宇宙船」騒動、その真相は科学者の“おふざけ”だった ― 謎の天体「3I/ATLAS」の正体とはのページです。彗星、宇宙船、恒星間天体、3I/ATLASなどの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで