もし、あなたが“植物状態”になったら… “AIの分身”が「延命治療」を判断する未来は、希望か、悪夢か

もし、あなたが事故や病気で意識を失い、自らの意思を伝えられなくなってしまったら…?その時、延命治療を受けるか否かという、究極の選択を誰が下すのか。これまでは、家族や医師が、本人の意思を「推測」して判断を下してきた。しかし、AI技術が急速に進化する今、その“推測”を、AIに委ねるという、驚くべき研究が始まっている。あなたの医療記録や過去の発言、さらには日々の会話までを学習した「AIの分身」が、あなたの代わりに「生きるか、死ぬか」を判断する。そんな未来は希望なのだろうか、それとも悪夢の始まりなのだろうか。
“AI代理人”計画―ワシントン大学で始まった、禁断の研究
この、倫理的に極めてデリケートな研究の最前線にいるのが、ワシントン大学の研究者、ムハンマド・アウラングゼブ・アフマド氏だ。彼は、患者のデジタルクローン、いわば「AI代理人(AI Surrogates)」を開発し、終末期医療の意思決定を補助させるという、野心的なプロジェクトを進めている。
現在、彼のモデルが分析しているのは、患者の負傷の重症度、病歴、過去の医療選択、そして人口統計情報といった、病院がすでに収集しているデータだ。これらの情報をAIに学習させ、過去のデータと照らし合わせることで、意識のない患者がどのような治療を望むかを予測する。
将来的には、患者が許可した医師との会話記録や、家族とのチャット履歴といったテキストデータも分析対象に加え、さらに理想的な形としては、患者が人生を通じてAIと対話し、自らの価値観の変化をAIに学習させ続けることで、モデルの精度を高めていくことを目指しているという。
「この研究はまだ始まったばかりだ。しかし、いずれAI代理人が、患者の意思を3分の2程度の確率で正確に予測できるようになることを目指している」と、アフマド氏は語る。

家族の苦悩を減らす救世主か、人間の尊厳を奪う“ブラックボックス”か
なぜ、このような研究が必要とされているのか。その背景には、意思決定を委ねられた家族や医師の、あまりに重い精神的負担がある。愛する人の「死」を決定することは、想像を絶する苦痛を伴う。そして、いくつかの研究では、代理人が下した判断が、本人の本当の意思とは異なっているケースが多いことも示されている。アフマド氏は、「AI代理人は、こうした不確実な状況で、より本人の意思に近い、客観的な判断材料を提供できる可能性がある」と、その意義を強調する。
しかし、この計画には、多くの医師や生命倫理の専門家から、深刻な懸念の声が上がっている。ペンシルベニア州の集中治療室で働くエミリー・モイン医師は、「こうしたモデルは、身寄りのない患者や、代理人がいない患者に対してこそ使いたくなるだろう。しかし、そうした患者こそ、AIの判断が正しかったのかを、永遠に検証することができない」と指摘する。
また、AIがどのような論理で結論を導き出したのかが不透明な「ブラックボックス」である限り、その判断を妄信することの危険性もある。「もし、ブラックボックスのアルゴリズムが『おばあちゃんは蘇生を望んでいません』と結論づけたとして、それが何の助けになるというのか。説明可能でなければ意味がない」と、サンフランシスコの医師テバ・ブレンダー氏は語る。

「AIは、我々を免罪してはくれない」
さらに、AI代理人の存在が、かえって家族間の重要な対話を妨げてしまう可能性も指摘されている。「AIが判断してくれるなら」と、人々が生前の意思確認や、終末期に関するデリケートな会話を避けるようになってしまうかもしれないのだ。
「心肺蘇生を行うか否かという判断は、文脈や状況によって変わる。AIがこの根本的な問題を解決することはできない」と、緩和ケアの専門医であるR・ショーン・モリソン博士は断言する。「それは、より良い予測の問題ではない。患者の意思は、その時々のスナップショットに過ぎず、未来を予測するものではないのだ」。
AIは、私たちを倫理的なジレンマから解放してくれる魔法の杖ではない。「AIは、我々を免罪してはくれない」。生命倫-理学者のロバート・トゥルオグ氏はそう語る。
究極的には、自分の最期をどう迎えたいかは、自分自身で決めるべきだ。そして、その意思を、信頼する家族や友人と共有しておくこと。AI代理人の研究は、我々にその最も重要で、そして人間的な営みの価値を皮肉にも再認識させているのかもしれない。
もし、AIがあなたの最期を判断するとして、あなたはそれを受け入れられるだろうか。その答えは、AIではなく、私たち一人ひとりが見つけ出さなければならないのだろう。
参考:Ars Technica、ほか
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