「はじめまして」死の直前、人々が口にする“奇妙に一致する最期の言葉”の正体とは

「はじめまして」
死の淵にいる人が、誰もいない空間に向かって、そう呟く。あるいは、突然「お母さん」と叫び、見えない誰かの腕を求める。映画のように劇的な遺言ではない。しかし、文化や国境を越え、多くの人々が死の間際に口にする言葉には、なぜか奇妙な共通点があるという。そして、その謎を解き明かす鍵は、死にゆく脳が引き起こす、神秘的な「意識の変化」にあるのかもしれない。
死の間際に訪れる“もう一つの意識状態”
人の死は突然訪れるものではない。身体のシステムが、一つ、また一つと、ゆっくりとシャットダウンしていく、緩やかなプロセスだ。そして、その過程で、多くの人が「せん妄」と呼ばれる、意識が混濁した状態に陥る。
緩和ケアを受ける患者の最大88%が、最期の瞬間に、このせん妄を経験すると言われている。この時、話す能力がまだ残っている患者の口から、驚くほど似通った言葉が発せられるのだ。
死の看取りを専門とする「デス・ドゥーラ」のブルック・ナッティング氏は、これまで多くの患者が、誰もいないはずの空間に手を差し伸べ、「はじめまして」と挨拶するのを目撃してきたという。また、突然冒涜的な言葉を叫んだり、「お母さん」と呼び続けたりするケースも、数多く記録されている。
“最後のきらめき”―死の直前に訪れる、驚くべき明晰さ
しかし、死の間際に訪れる意識の変化は、せん妄だけではない。ごく一部の患者には、「ターミナル・ルシディティ(終末期明晰)」、あるいは「最後のきらめき」と呼ばれる、驚くべき現象が起こることがある。
それは、長年重度の認知症などで意識が混濁していた患者が、死の直前に、突如として正常な意識を取り戻し、明晰になる現象だ。「誰もが受け取れるわけではない、“贈り物”のようなもの」だと、ナッティング氏は語る。
この束の間の明晰さの中で、患者は愛する人々を認識し、意味のある会話を交わし、時にはテクノロジーを使って、遠くにいる家族に最後の別れを告げることさえあるという。
なぜ、このような現象が起きるのか、科学的にはまだ完全には解明されていない。有力な仮説の一つは、「酸素欠乏」だ。死にゆく脳が酸素不足に陥ると、かえって意識レベルを高めるガンマ波が急増することが、2023年の研究で示唆されている。もし、この仮説が正しければ、「意識」とは、脳の機能が停止した後も、しばらくの間、存続しうるものなのかもしれない。

最期の言葉の意味を、決めるのは誰か
では、これらの奇妙な最期の言葉に、果たして意味はあるのだろうか。終末期コミュニケーションの専門家、モーリーン・キーリー博士は、「それは完全に状況による」と語る。
看護師やドゥーラにとっては意味不明なうわ言に聞こえても、家族にとっては、二人だけに通じる深い意味を持つ言葉である可能性もある。「そこに深遠な会話があったかどうかを決められるのは、それを受け取ったあなただけなのです」と、キーリー博士は言う。
死の淵で人々が見る風景、そして口にする言葉。それは、脳が見せる最後の幻覚か、それとも、我々がまだ知らない、意識の深淵を垣間見る瞬間なのか。その意味を解き明かすのは、科学者ではなく、遺された者たち一人ひとりの心なのかもしれない。
参考:Popular Mechanics、ほか
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2024.10.02 20:00心霊「はじめまして」死の直前、人々が口にする“奇妙に一致する最期の言葉”の正体とはのページです。意識、せん妄などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで