複雑な内部構造が生む“断末魔の叫び”、生贄の遺体が握りしめていた「アステカの死の笛」に隠された3つの仮説

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 恐ろしい叫び声のような音色の「アステカの死の笛」の謎とは――。進軍を鼓舞する楽器なのか、癒しのアイテムなのか、それとも死後の世界へのお守りなのだろうか。

■「アステカの死の笛」の用途の有力3説

 1990年代。メキシコの考古学者グループが500年以上前のアステカ神殿の一部を発掘していたところ、人身供養の犠牲者と思われる男性の遺体が発見された。

 遺体の両腕は胸の上に丁寧に置かれ、手にはドクロの絵が彫られた小さな物体が握られていた。その後これは笛であることがわかり「アステカの死の笛」と呼ばれるようになった。

 その音色は衝撃的で、まさに人間の叫び声であり、聞いた者の背筋を凍りつかせるほどだ。

「アステカの死の笛」の内部は、さまざまな経路が複雑に組み合わさった構造になっており、吹き込んだ息が複数の空気の通路を巡り、互いに衝突することで圧力を高め、恐ろしい人間の叫び声を生み出す。

「アステカの死の笛」は何の目的でどのように使われていたのか。専門家の間では多くの説があるが、以下の3つの説が有力視されている。

●戦いの行進曲

 アステカ人が戦場へ進軍する際に、敵を威嚇するために不吉で威圧的な音を奏でていたことはよく知られている。彼らは太鼓を携行し、それを一斉に一定の速度で叩いていた。数百、あるいは数千もの太鼓の音は、力強く恐ろしい響きを生み出したのだ。

 アステカ人がスペイン軍に対して行進する際に、このような太鼓を用いたという記録が残っている。スペインの記録にはこれらの太鼓がいかに容易に恐怖を醸し出すかが詳細に記されている。

「アステカの死の笛」の音色も敵を動揺させる効果がありそうで、太鼓と共にこの笛を進軍の折に吹いていたとしても不思議ではない。

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●治療目的

 笛の奇妙な音は恐怖を抱かせるためではなく、聞く者をトランス状態に導くためのものだった可能性があるという。

 トランス状態へ導かれることは、肉体的にも精神的にも“癒しの儀式”への導入として機能していたかもしれないという。

 したがって「アステカの死の笛」の音色は、決して恐怖を引き起こすあtめではなく、実際には慰めをもたらすためのものだった可能性があるということだ。

 奇妙で不安を掻き立てるメロディを何度も繰り返し聞くことで、いつしか別の種類の平静へと誘われる可能性が指摘されている。

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●来世への道案内

「アステカの死の笛」は主に人身供養の犠牲者の遺体に備わっていることから、死後の世界へのお守りのような意味があったとも考えられるという。

 さらに興味深いのは、遺体は神殿の前に埋葬されただけでなく、風の神・ケツァルコアトルの像の真正面に置かれていることだ。ケツァルコアトルは犠牲になった個人を来世で安寧に導くといわれている。

 そのため「アステカの死の笛」は人身御供の犠牲者を弔う意味があったとしても不自然ではない。

「アステカの死の笛」はかつて、装飾的な機能を持つ単なる装身具とみなされ過小評価されていたが、現在はこのようにアステカの伝統と生活様式についてのより深い考察と理解を促す文化的象徴となっている。史料が少ないアステカ文明への理解がさらに深まることを期待したい。

参考:「Ancient Code」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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