ドビュッシーやディズニーも影響された葛飾北斎!! 名画「富嶽三十六景」ができるまで
――エカキで作家・マンガ家、旅人でもある小暮満寿雄が世界のアートのコネタ・裏話をお届けする!
ひとたび火を吐けば、これほど恐ろしいものはない富士山だが、今日、私たちの前に見せる富士山の顔というのは、まさに霊峰の名に恥じない。晴れて天気の良い日に富士を見ると、何か良いことがありそうな気持ちになるし、これほど日本人でいて良かったと思わせるものはないのではないだろうか。
東京恵比寿の山種美術館では、現在「富士と桜と春の花(2014年5月16日まで)」展が行われている。展示は「富士」と「花」の二部構成で、花はタイトルの通り、桜や梅など季節の花を描いた日本画が並べられているのだが、目玉である富士の絵よりも、花の絵の方が美しいのが意外なところだ。
これは富士山の実物があまりにも素晴らしく、絵画では実物を凌駕することができないからなのかもしれない。「円山応挙、横山大観、奥村土牛」など、錚々たる画家たちの絵が並べられているが、それらの名画さえも、晴れた日に見える本物の富士に及ばないのである。
それだけではない。銭湯の富士山の方が、ずっと本物の雰囲気に近いことがあるのも面白い。もちろん、絵画的なクオリティからいえば大観や土牛に及ばないが、晴れた日に富士山を見た時の「何か良いことありそうな気持ち」は、銭湯の絵の方に軍配が上がるかもしれない(日本画の重鎮たちにお叱りを受けそう)。
そんな中、この展覧会で特に「良い」と思えた富士は、葛飾北斎や歌川広重が描いたものであった。これは、浮世絵が富士山そのものに肉薄せず、デザイン化したり、シンボル化しているからだろう。
■歌麿、北斎から劇的に変わった浮世絵
富士を描いた絵といえば、何と言っても葛飾北斎による「富嶽三十六景」が広く膾炙されている。
だが、実際の北斎の絵のスタイルは「富嶽三十六景」だけではない。北斎漫画や妖怪の絵、美人画や武者絵、はたまた龍を描いた油彩画など、そのバラエティはさまざまだ。それでも「富嶽三十六景」が北斎の代表作となっているのは、それなりのワケがあるのだ。名画「富嶽三十六景」が誕生するまでのドラマを振り返ってみよう。
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