男版モナ・リザ『サルバトール・ムンディ』ダ・ヴィンチの名画の謎、そしてサウジアラビアの計画とは

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サルバトール・ムンディ レオナルド・ダ・ヴィンチGetty Images, パブリック・ドメイン, リンクによる

 2017年11月、レオナルド・ダ・ヴィンチの名画「サルバトール・ムンディ」が、ニューヨークのクリスティーズ・オークションで史上最高額となる4億5000万ドル(約500億円)で落札された。この落札者はサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子であると言われており、以来この絵画はサウジアラビアの国家プロジェクトの中に秘蔵されているとされている。美術界でその行方が注目されるなか、「サルバトール・ムンディ」は一体どこにあるのか、そしてサウジアラビアの計画とはどのようなものなのか?

サルバトール・ムンディとは

「サルバトール・ムンディ」(Salvator Mundi)は、青いローブをまとったイエス・キリストが正面を見つめ、右手で祝福のジェスチャーを行いながら左手に透明な水晶の球体を持つ姿を描いた絵画である。この球体は宇宙全体を象徴しているとされ、キリストの神聖さと力を表現している。

 作品は15世紀末から16世紀初頭にかけてレオナルド・ダ・ヴィンチが描いたとされ、「世界の救世主」という意味を持つタイトルにふさわしく、神聖で静謐な雰囲気が漂う。

 しかし、真贋については議論が絶えず、一部の専門家はダ・ヴィンチの弟子や後世の画家による加筆が含まれている可能性を指摘している。

 それでも「サルバトール・ムンディ」は「男性版モナリザ」や「ラスト・ダ・ヴィンチ」とも称され、現存するダ・ヴィンチ作品として広く注目されている。

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ムハンマド皇太子 Mazen AlDarrab – Sent, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

サウジアラビアが描く「芸術国家」構想

 サウジアラビアでは、ムハンマド皇太子が進める「ビジョン2030」に基づき、経済の多様化や文化の自由化を進める動きが活発化している。石油依存から脱却し、新たな収益源を創出するため、サウジアラビアは国内外のアートに大規模な投資を行っており、「サルバトール・ムンディ」の展示もこのビジョンの一環として期待されている。

 この計画には、サウジ国内に世界的な芸術施設を建設するプロジェクトが含まれ、ジッダやリヤド、そしてアルウラなどの都市に複数の美術館や博物館が次々と建設される予定だ。また、アルウラの砂漠地帯では現代アートの展示が行われ、世界的なアートフェスティバル「Desert X」などとのコラボレーションも行われるなど、文化的発展に意欲を示している。

「サルバトール・ムンディ」はどこへ?

「サルバトール・ムンディ」は当初、アブダビのルーブル美術館で展示される予定だったが、その計画は突然延期され、現在もどこに保管されているのか公にはされていない。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、サウジアラビアは同作品を新設の美術館で展示する意向があるとされ、これによりサウジアラビアの芸術施設の中心的な展示物として披露する計画が進行中とされている。

 ただし、サウジアラビアの政府関係者は、イスラム芸術作品の美術館とは別に西洋芸術作品専用の美術館を建設し、「サルバトール・ムンディ」を目玉展示品としない方針を検討しているという。これは、同作品がアート分野でのアイコンとなることを避け、イスラム芸術の価値を強調するための配慮である。

サウジアラビアの「文化の転換」と未来のアート国家への道

 これまで宗教的な背景からアートがタブー視されてきたサウジアラビアだが、現在は映画、音楽、オペラ、さらには現代アートに至るまで多様な文化が国内で受け入れられるようになっている。特にアルウラの砂漠地帯では、アート展示イベントが成功を収めており、文化面でも国際的な評価を高めている。サウジアラビアが文化や芸術分野での成長を続ければ、近い将来、訪れる人々にとって魅力的なアート国家となる可能性がある。

 サルバトール・ムンディが一般公開される日が来れば、サウジアラビアは世界中の美術愛好家や観光客を引き寄せることができるだろう。

参考:「The Wall Street Journal」、「My Modern Met」ほか

 

※当記事は2020年の記事を再編集して掲載しています。

文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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