>  > 体外離脱を疑似体験する「SR(代替現実)」

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視線を追尾できる国産HMD『FOVE』。これからベンチャーの参入が高まる分野だ

 ついに動き出したVR(バーチャルリアリティ)。数年前、日本をはじめ世界の大手家電メーカーが一斉に3Dテレビを発売したものの、あっという間に撤退したことは記憶に新しい。また3D映画も、火付け役となったジェームズ・キャメロンの『アバター』以降、3Dをウリにしてヒットした作品はない。一時的な熱狂が覚めれば、残ったのは「目が疲れる」「コンテンツが少ない」「飽きやすい」などネガティブな評価ばかりだった。

 すでにVR技術はビジネス現場で多数導入されている。薬の仕分けや飛行機の整備などを迅速に行うため、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)に必要な項目を表示したり、対象のエンジン等の透視図を視界に合わせて表示したりできる。分子化学的な研究でも、HMDとデータグローブ(手の動きをそのままデジタル変換。デジタル空間のオブジェクトを手で触って操作できるため、直感的な操作が可能になる)を使い、新しい分子構造を探ったり、遠隔地の手術をVR下で行ったりしているのだ。


■体外離脱を疑似体験する「SR(代替現実)」とは?


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理化学研究所脳科学総合研究センター適応知性研究チーム チームリーダー 藤井直敬

 理化学研究所脳科学総合研究センター適応知性研究チームのリーダー、藤井直敬氏が開発した「SR(代替現実)システム」は、ヘッドマウントディスプレイに映る映像を操ることで、被験者の時空間の感覚を操作するものだ。それは体外離脱や悟りの疑似体験であり、脳が把握する現実がいかにあやふやなものかを体験できる装置なのだという。藤井氏に話を聞く。

「ゴムの手のイリュージョンを体験されたことありますか?」

 藤井氏の言うゴムの手のイリュージョンとは、手の模型と自分の手を並べ、同時に刺激するとあたかも模型の手が刺激されているかのように感じる錯覚実験のことだ。

「あれはほとんどの人に起きるんですね。視覚と触覚が同期すると、『自分の手はここにある』と身体のイメージが拡張するんです。見えている手が触られ、自分の手が見えないと空間的に見えている手へと身体が拡張する。そういうことは脳では簡単に起きるんですが、普段、経験がないので起きることがわかっていない」

 道具を使うと先端が自分の体のように感じることがあるが、それが身体の拡張だ。

「意識が外に出るというのは、身体の主体が中にあるか外にあるかの違いでしょう。脳の中でそういうことが起きている、脳科学者としてはそう言うしかないですね」

 体外離脱は眠っている時や臨死体験の時に起きるが、それを日常生活で目覚めている時にできる人はまずいない。

「今、離脱中です、という人の話は聞けないんです。体外離脱した人は、終わってから思い出して話をする。でも記憶というのは思い返すたびに毎回作っているんです。自分に都合のいい思い起こし方をすると、それが嘘でも信じてしまう。自分はこういう体験をしたという人の話がどのくらい正しいかというと、あまり確かではない」

 記憶は主観だ。誰にも確認のしようがない。

「主観を他人が共有することは技術的に無理です」

 幻覚と夢の区別は、本人にはつかない。耳鳴りと幻聴は症状としては同じようなものだろうが、耳鳴りはキーンという普通ではない音なので、自分で病気だとわかる。しかし、幻聴は現実と区別がつかない。だから怖い。

「脳には夢を見る仕組みがあるのだから、それは何にだって使えますよね。幻聴だって幻覚だって起きる。夢の中で何かを触ると触った感触がありますよね。触った時の入力がないのに、脳が勝手に刺激を作り出している。脳があると信じれば、ある。映画の『マトリックス』みたいなことはあるかもしれない」

 僕らが現実だと思っていることは主観に過ぎない、と藤井氏。

「みんなそう言ってきたけど、それを知るには宗教的な儀式をするとか過酷なトレーニングをするとか薬を使うしかなかった。でも、SRを使えば、誰でも現実がどれほどあやふやで信用ならないものなのかがわかる」

 いま目の前でしゃべっている藤井氏がそこにいると思って話をしているが、本当はいないかもしれない。

「パチンと僕がここから消えたら、ヤバいと思うでしょう? SRではそういう環境を作ることができる」

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