人類の命の“恩人”はブタ!? ブタから人間への「異種移植」は実現するのか
楽しいときも悲しいときも、走っているときも寝ているときも絶えず鼓動を打ち続ける心臓、私たちの命を象徴する存在ですね。しかし、もしその心臓が重大な病気で機能しなくなり、心臓移植以外で生き長らえる術がない事態に陥ったならば、現在では非常に厳しい状況であるといえます。臓器提供者の不足から、適合する臓器が見つかるまで数年かかることもあり、その間に亡くなってしまう患者もいます。また人工心臓の開発も進んでいますが、まだ完全な代替装置とはなりえていません。
■ブタからヒヒへの異種移植が成功
そんな現状をブタが打破するかもしれません。昨今、他の種の動物の臓器を移植する「異種移植」の研究が進んでおり、近い将来人間での臨床試験が行われるかもしれないと、4月30日付の「Daily Mail」などが報じています。動物による臓器提供が可能になれば、たくさんの人命が救われますが、本当に可能なのでしょうか。
報道によるとその最先端の研究は、4月28日にカナダのトロントで開かれたアメリカ胸部外科学会において発表されました。その研究では、ブタの心臓をヒヒの体内に移植し、500日間機能し続けたといいます。研究を行なったアメリカ国立衛生研究所に属する国立心肺血液研究所の移植チーフであるムハマド・モヒウディン博士は取材に対し、「異種移植は、人間のドナーが見つかるまでの応急処置に使用したり、あるいは完全に人間の臓器と同等に使用したりできるかもしれません。その際には、免疫系の働きによる拒絶反応が一番の障壁です」と話しています。
そのため、今回の実験では「ノックアウトブタ」と呼ばれる、遺伝子操作によって免疫不全の状態であるブタを使用しました。また、免疫反応を媒介する血中タンパク質群を「補体」というのですが、その働きを抑制する「崩壊促進因子」という遺伝子をブタに導入しました。そのブタの心臓を、免疫抑制剤を使用したヒヒの循環系に、ヒヒのもともとの心臓は取り除かずにつないだところ、500日という期間にわたり機能し続けました。この結果から、拒絶反応はかなり制御できていることがわかります。
■ブタから人間への異種移植はもうすぐ!?
今後は、ヒヒの心臓をブタの心臓と置き換えて機能するかを試験することになりそうです。もしそれが成功すれば、何年か後には人間においてブタの臓器を使った異種移植の臨床試験を開始することができるかもしれません。モヒウディン博士は、肝臓や肺や腎臓など他の組織についても、同じようにブタから異種移植できると考えています。それが実現すれば、移植用臓器の供給不足に悩まされることも無くなりそうです。
ところで、ヒヒの方が種として人間に近そうなのに、なぜブタの臓器を使うのでしょうか。それは、ブタの心臓が比較的人間にサイズの近いということや、個体の成長が早く調達しやすいことが重要だからです。また、ヒヒなどの類人猿は人間に脅威をもたらすウイルスに感染するリスクが高いのに対し、ブタはリスクが低いです。さらに古来より家畜として飼育されていることもあって、倫理的な抵抗が比較的弱いことも理由の一つです。
普段から食肉として、間接的にわたしたちの血や肉となってくれているブタ。将来的には直接的にわたしたちの心臓になってもらうかもしれません。普段の生活ではあまり考えることもありませんが、改めて命をいただいていることへの感謝の気持ちを忘れないようにしたいですね。
(文=杉田彬)
参考:「Daily Mail」、「livescience」ほか
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