【実話怪談】「縁切り傷」深夜、私に馬乗りになり胸を刺した“犯人”とは… 縁切り神社で母を呪った女の末路

※当記事は2018年の記事を再編集して掲載しています。
作家・川奈まり子の新連載「情ノ奇譚」――恨み、妬み、嫉妬、性愛、恋慕…これまで取材した“実話怪談”の中から霊界と現世の間で渦巻く情念にまつわるエピソードを紹介する。
縁切り傷
群馬県太田市出身の土屋みのりさんの胸には傷がある。ちょうど心臓の真上を刃物で刺されて、一命は取り留めたものの、大きな痕が残ってしまったのだ。
この怪我を負った2001年は、土屋さんにとって人生最悪の年であった。当時21歳で技術職の会社員だった彼女は、その年の春に4年付き合った恋人と別れた。心の痛手が癒えないうちに、夏には母親が事業の運転資金と偽って彼女から巻き上げた金をすべてパチンコにつぎこんでいたことが発覚。怒りをぶつけた土屋さんを母は冷たく嘲笑った。
思えば、物心ついて以来、ほめてくれたことなど一度もない冷たい母だった。でも、お金を手渡すたびに、笑顔で「ありがとう」と言ってくれたのだ……。親の愛を買えるかもしれないという夢からさめてみれば、母に貢ぐために消費者金融から借りた額と奨学金の残金、合わせて約600万円の借金だけが残されていた。
月々の返済に追われて、精神的にも経済的にも実家を出る余裕がない中、土屋さんは、今までに母から受けた散々な仕打ちをひとつ残らず思い起こした。そして恨みをつのらせた挙句、日本三大縁切稲荷のひとつとして名高く、家からも近い門田稲荷神社に詣でて、母との縁切りを願うようになった。
足繁く通ったが、縁切りが成就する兆しがないまま、やがて年の瀬を迎えた。深夜、2階の自室でベッドに横になるたび、階段を登ってくる足音を聞くようになったのは、師走の初旬のことだった。
ギシッ、ギシッ……。
重い足取りで上ってくる音と気配。“それ”は、2日目には、階段を上るだけではなく、階段から三歩ほど離れた土屋さんの部屋の前までやってきた。3日目になると室内に侵入してきたように感じられた。
そのとき、金縛りにあっていることにも気がついた。徐々に接近してくる。しかも毎晩訪れる。
7日目、ついに“それ”は馬乗りになって土屋さんの顔を覗き込んだ。人の形をした真っ黒な影の塊のようで、視線は感じたが顔はわからなかった。
10日目、“それ”は土屋さんの首を絞めはじめた。日増しに絞める力が強くなり、朝、喉に手の跡が残っていないのが不思議なほどだと思うようになった矢先、足音が聞こえはじめたときから数えて2週間目に、とうとう“それ”は刃物を持ってやってきた。
土屋さんに馬乗りになって腕を大きく振りかぶる――と、その瞬間、霧が晴れるように黒い影が薄らぎ、今まで隠れていた顔が露わになった。
なんと“それ”は自分の顔だった。
血の気がなく、激しい憤怒に引き歪んで、まるで般若の面のようだ。しかし間違いない。私だ! と、驚くのと同時に切っ先が体に喰い込んだ。刺された途端に金縛りが解けた。しかし助けを呼ぶのが精一杯だった。胸の傷は本物で、鮮血が噴き出していたのだ。布団も寝間着も破れていなかったのに……。

治療を担当した医師は包丁による自殺未遂を強く疑ったが、彼女の入院中に両親が家中くまなく探しても、それらしい刃物は見つからなかった。あまりの不思議さに、自分を刺したのは母に対する恨みの念だったのだと考えるようになり、母に限らず人を恨むことをやめようと決心した。
すると縁切りが叶ったかのように、支社への人事異動の辞令が出されて、退院後ひと月も経たず、実家を出て支社の社員寮に入れることになった。良縁にも恵まれ、夫の助けもあって10年前に借金を返し終わった。一生消えない胸の傷痕も、今はひそかに誇らしいのだという。
※当記事は2018年の記事を再編集して掲載しています。
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