【怪談】洗ってもアノ匂いが消えない「スニーカーの怨念」遺体から盗まれた靴が勝手に…

※当記事は2021年の記事を再編集して掲載しています。
――タイ在住歴20年の私バンナー星人が、タイ社会では馴染みの深い、妖怪、幽霊、怪談、呪術、占い、迷信といったものに光をあて、日本人の目には触れることが少なかったタイの怪奇世界に皆様をお連れします。
■破格の中古スニーカーに友人が言ったひと言「その靴はもしかすると…」
タイに来てまもないころ、タイ人の友人に「チャトチャック市場」に連れて行ってもらったことがある。週末だけオープンするこの市場は「ウィークエンドマーケット」とも呼ばれ、海外からの観光客にも人気の場所である。メインの客層は地元のタイ人、特に若者たちで、出店も彼らにウケそうな服、カバン、靴などを扱う店が多い。
多種多様な出店をチェックしながら歩いていると、デザインのよいスニーカーが売られていた。値段を聞くと思ったよりも随分安い。試しに履きしようとしたその瞬間、友人が近寄ってきて「やめといたほうがいい」と耳元で囁いた。
「え?」と不思議に思ったが素直にその場を離れた。「安いと思ったけど高かった?」と友達に聞いてみる。「値段じゃない、中古の靴は、どこから来たかわからないから、むやみに手を出さないほうがいいと思って」と言う。説明を聞いても、まだ不思議そうな顔をしている私に、友人は続けた。
「交通事故現場の遺体から盗んできたものも出回っていたりするって聞くし。霊に取り憑かれるの、怖いでしょ?」
灼熱の日差しに照りつけられながらも、思いもよらぬ理由を聞いて背筋が凍った覚えがある。後日、調べてみると、実際、タイでは古着や中古靴にまつわる怪談は多いようだ。一例として、バンクと名乗る人物が怪談サイトに投稿していた話を紹介しよう。
■洗っても洗っても饐えた匂いが消えない?!
大学を卒業したはいいが、仕事に恵まれなかったバンクさんが思いついたのが、市場で中古靴を売る商売だった。仕入れ値をいかに抑えるかがポイントである。しかし問題はなかった。なぜなら、カンボジア国境に隣接する町、アランヤプラテートにあるローンクルア市場には、衣料品が破格の値段で売られているからだ。キロ単位いくらで量り売りされる袋の中は、まさに玉石混淆で、ビンテージなお宝が紛れ込んでいることもある。昔から靴には目がないし、目利きには自信あるバンクさんにとって、中古靴の仕入れと販売はもってこいの商売に思えた。バンコクの市場の一角を月借りした彼は、兄所有のピックアップ・トラックで、早速仕入れに向かった。

最初に仕入れたのは2袋いっぱいの靴である。なんと2日で完売する盛況ぶりだった。国境の市場まで片道4時間かかっても十分旨味のある商売だ。気を良くした彼は、すぐに2度目の仕入れに向かった。順調に買い付けを終え、家に帰り、荷下ろしをして仕分けしていた時だった。「お前、一体何を運んできたんだ? 荷台が臭くてしかたない」と、帰宅した兄が怒りながら問い詰めてきた。
「何って靴だけだよ」そう答えたが、言われてみると、たしかに何かが腐ったような、すえた匂いが漂っている。あれだけ大量の中古靴を仕入れてきたのだから、いろいろな匂いが混じり合うのも不思議なことではない。兄の怒りを他所に、バンクさんは自分の幸運に興奮していた。仕入れた靴の中に、某有名スポーツブランドの正規品が2足紛れ込んでいたのだ。「この商売、思ったよりいけるかもしれない」期待を膨らませる彼に兄の小言は聞こえていなかった。
翌日、バンクさんは新しく仕入れた靴を店に陳列し、客が来るのを待った。もちろん靴は売り物だからスプレーで消臭もした。靴は順調に売れていく。儲けものだ。しかし奇妙な感覚を拭えない。なぜか誰かに見つめられている、そんな気がするのだ。客が来た雰囲気を感じて振り返る、しかし誰もいない。普段なら気のせいで片付けられることも、その日はどうにも引っかかってしまう。

また不思議なことに、真っ先に売れるハズの例のブランド靴がなかなか売れないのだ。結局2足とも売れないまま、その日は閉店時間となってしまった。納得のいかないまま、売れ残った靴を袋に戻す。突然、異臭が鼻腔を刺激した。今朝、すべての靴に消臭をほどこしたはずなのに、売れ残った2足のブランド靴から、すえた匂いが立ち上っている。兄が言っていた匂いはこれのことか..。
帰宅直後、早速、2足とも丹念に洗って乾かし、一階の上り口に並べておいた。あのイヤな臭いは消えたようだ。兄に話すと「気味が悪いから捨てたらどうだ」と言ってきたが、せっかくの掘り出し物を、そんな理由で手放すわけにはいかない。しかし、その夜、事件が起きてしまった。
事件について語る前に、バンクさん兄弟が住んでいた家について説明しておこう。それは「タウンハウス」と呼ばれる2階建の家だった。タウンハウスは隣の住戸と壁を共有している。つまり、一戸建て風の住宅である。手頃な価格も手伝い、バンコクの中流階級には人気がある。どうしても隣家の生活音が漏れ聞こえてしまうのが難点である。話に戻ろう。
■暴走を始めたスニーカーはついに……
その日、深夜1時を過ぎた頃、2階の寝室で眠る兄弟は夜の静けさを破る物音で目を覚ました。音は隣家の1階から聞こえてくる。ドタバタと床をふみ鳴らすような音、パンッ!という何かが弾ける音も聞こえてきた。外で飲んで帰ってきた隣人が友人とパーティーの続きでもやっているのだろうか。迷惑な話だが、わざわざ文句を言って事を大きくすることもない。いつの間にか、再び眠りに落ちていた。
翌朝、まだ寝ている兄を横目に1階に降りた途端、バンクさんは眉をしかめた。洗って取れたはずのあの匂いが、リビング中に漂っている。あれだけ洗ってダメなら、いよいよ捨てるしかないか…..そう思いながら、換気のために玄関のドアを開けると、ちょうど隣人と目が合った。昨晩の騒音について文句を言ってやろうか。躊躇していると隣人が先に口を開いた。
「ずいぶん遅くまで盛り上がっていたようですけど、何かお祝いごとだったんですか?」一瞬、あっけに取られた。「それ、うちじゃないですよ」、そう言うのが精一杯だった。「それなら別のお宅かしら」隣人は納得のいかない顔つきで家の中に入っていった。
一体何なんだよ……と思いながら、家の中に戻ろうと振り返る。足を一歩踏み出したまま、その場で凍りついてしまった。昨日上り口に置いていたはずの2足のスニーカーがリビングの中央に乱暴に脱ぎ散らかされている。玄関のドアから漏れる朝日がリビング床の白タイルを照らす。スニーカーの足跡がくっきりと浮かび上がっていた。

あの2足のスニーカーは、事故現場の遺体から持ち去られたものだったのか。真相はわかるはずもない。その後、バンクさんは2足のスニーカーをお寺で供養してもらい、結局、それっきり中古靴を扱う商売も止めてしまった。
カンボジアとタイの国境市場は、古くから日本人バイヤーも出入りしている。アパレル関係には有名な場所だ。ここで日本人バイヤーによって格安で仕入れられた古着は、東京や大阪で人気の古着屋で若者向けに陳列されているだろう。服や靴に憑依した死者の無念、その思い――それは海を越えてさえ、あなたの元にやって来るかもしれない。
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