村八分を題材にした名作映画『気違い部落』で描かれたものとは?
内容は、東京都心から西南へ50キロほどにある貧しい集落・名無村――通称「気違い部落」で逞しく生きる村人達のリアルな姿が描かれる。集落では親方(名主みたいな人)と村八分にされた農民・鉄次(怪優・伊藤雄之助)が、所有地をめぐって対立している。その鉄次の娘・おみつは森繁のナレーションで「ミス気違い部落」と紹介されるのだが、演じるは、我らが水野久美。モンペ姿で弱冠二十歳そこそこの水野様がとても瑞々しく、東宝特撮のヒロインとしてエロスを見せつける以前のダイヤの原石を痛感する。
だがおみつは、東京へ勤めに出ていた親方の次男坊と恋仲(プラトニック)というロミオとジュリエット状態で、結核で若死にしてしまう悲劇のヒロインだった。しかも、冠婚葬祭は集落全員で執り行うのが掟なのだが、鉄次は村八分ゆえ、村人どころか恋人すら、おみつの葬儀に参加を許されなかった……。鉄次夫妻は村から出ていくことを勧められるが、それでも彼らは悲しみを超え、ここで生涯を全うするんだという強い意志を持って集落に居座ることを決意する。
70年代以前「気違い」という言葉は、精神病とは別義に「釣りキチ」、「虎キチ(阪神タイガースファン)」のように「度を過ぎた」というニュアンスで使われていた。また「部落」という言葉は、被差別部落問題からくる忌避意識から放送禁止用語のように扱われてきたが、言葉自体は差別用語ではない。民放では該当台詞の音声が削除されるケースがほとんどだが、NHKでは普通に使用されている。メディアの現状としては、「気違い」は使用せず、「部落」は「集落」に置き換えられているといったところだが、村の因習に翻弄される人間の生き様を悲喜劇として描いた秀作として、この作品のソフト化が待たれる。
『気違い部落』
1957年 松竹
原作/きだみのる
監督/渋谷実
脚本/菊島隆三
出演/森繁久弥、伊藤雄之助、淡島千景、伴淳三郎、水野久美ほか
■天野ミチヒロ
1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究 家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイト ネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物 (UMA)案内』(笠倉出版)など。新刊に、『蘇る封印映像』(宝島社)がある
ウェブ連載・「幻の映画を観た! 怪獣怪人大集合」
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2024.10.02 20:00心霊村八分を題材にした名作映画『気違い部落』で描かれたものとは?のページです。封印、タブー、気違い部落などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで