レーザー光線で記憶を消す装置!? 記憶のコントロールに成功
■記憶を呼び覚ますことにも成功
しかし発見はこれでは終わらない。このマウスに高電圧のショックを与えることで「恐怖」の記憶が再び甦ったのだ。ショックを与えた後のマウスに最初の周波数のレーザーを与えると、足元に電流を流さなくとも再び「恐怖」の感情をあらわすようになったという。
研究を行ったサデウ・ナバビ博士は「神経を刺激してシナプス結合を強めたり弱めリすることで、我々は動物に恐怖を抱かせ、次にその恐怖を取り除き、そして再び恐怖を思い起こさせることができたのです」と語る。
加えてマリノ教授は「アルツハイマー病患者の脳に蓄積する有害な生成物は、我々が行った実験と同じような方法でシナプス結合を弱め、記憶を減退させていることを示しています。この研究はアルツハイマー病の進行を防ぐ新たな道を示唆するものになるかもしれません」と述べている。
アメリカ国立精神保健研究所の指導官であるトーマス・インセル氏は「この研究がもたらした記憶のメカニムズへの深い知見が、PTSD(心的外傷後ストレス障害)患者などが抱える手に負えないトラウマの制御を可能にする糸口になり得ます」と述べている。
また最近の研究では、多発性硬化症患者に投与する免疫抑制剤入りの薬剤を与えられたマウスは、痛みを伴う体験や記憶を忘れてしまうという報告もされている。
今回証明されたこの技術が人間に応用できるようになるのはまだまだ先のことではあるが、記憶をコントロールする技術の開発は確実に前進している。思い出すたびに赤面するような過去の大失態を「消去」することができればすいぶん生きやすくなるとは思うが、そういったものを含めた全ての記憶が何物にも代え難い独自の人生なのだという感もしてくる。ともあれ、今後もこの分野の研究の進展を注意深くチェックすべきであろう。
(文=仲田しんじ)
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