クソッタレな時代に放たれた素晴らしすぎる異臭 ― 写真家・石川竜一「絶景のポリフォニー」2014年木村伊兵衛賞最有力候補者!?
■木村伊兵衛賞? ただ、写真を撮り続けられればそれでいいんです
12月5日、銀座のニコンサロンに在廊中の石川と訪ねた。
「自分を捨て、そこにあるものをできる限り受け入れる。そうすると、それまで見えなかったものが見えてくるんですよ」
沖縄出身者らしい柔らかな言葉運びと真剣な面持ちで、一言一言を丁寧に語る石川の話を聞いていて、「この男はおそらく『世界を受け入れるためのニュートラルな器』、デジタルカメラで例えればイメージセンサー、巨大なCCDになりたいのではないか?」と感じずにはいられなかった。
今年の初冬に、石川竜一という名前が突如として話題になり始めた1つの理由は、石川の写真そのものが持つヤバさだけではない。作品発表のスピードと規模。つまりは、熱量が並外れているからだ。
11月に石川は、今回の写真展と同名のスナップで構成した「絶景のポリフォニー」、そして、2010年から2年間で撮影したおよそ3000人のポートレートからまとめた「okinawan portraits 2010-2012」という2冊の分厚い写真集をほぼ同時に刊行した。並行して渋谷、新宿、銀座で立て続けに写真展を開いている。無名の新人写真家が短期間にこれだけ大規模な作品発表をすることはほとんどない。エネルギーの面でも金銭的な面でも運不運の面でも、並の新人作家がこれだけのことをするのは現実的に難しい。
加えて、写真展と写真集の発表時期。日本の文学界に芥川賞があるように、写真界には木村伊兵衛賞がある。この賞は毎年1月から12月の間に雑誌、写真集、写真展などの形で発表された写真作品に贈られる新人賞なのだが、1月の第3週あたりに候補者が発表され、2月の第1週に受賞者が決定するのが例年の流れだ。そして、賞狙いの写真集は11月に発行される傾向がある。
写真そのものの強さ。作品集の密度とクオリティの高さ。そして、計ったように絶妙な発表時期。写真界の事情を多少なりとも知っている人であれば、どれをとっても石川が木村伊兵衛賞を狙っていると考えて不自然じゃない。
ところが石川本人は、こちらがあっけにとられるほど賞を意識していない。むしろ、周囲の騒ぎように面食らい、戸惑っている節さえある。
「ただ、写真を撮り続けられればいいんです。賞金は欲しいけど(笑)」
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