クソッタレな時代に放たれた素晴らしすぎる異臭 ― 写真家・石川竜一「絶景のポリフォニー」2014年木村伊兵衛賞最有力候補者!?
■政治的な主張なんてない、ただそこにあるものを写すだけ
石川の写真が写し出しているものは、彼が生まれ育った沖縄だ。しかし、石川が切り取るイメージは、一言で言えば「その時、そこにあるもの」だ。被写体にせよイメージそのものにせよ、それぞれは強烈だ。だが、そこには政治的な主張も社会的なメッセージもない。
沖縄という言葉や土地そのものが表すイメージは、受け取る人によって大きく異なる。青い空に海、南海の楽園のような島を思い浮かべる人はいるだろう。艦砲射撃と火炎放射器で跡形なく荒廃した焼け野原や集団自決の悲劇を思い起こす人もいるはずだ。その幅には文字通り、天国と地獄ほどの開きがある。
壊れかけた小屋も、ケバケバしいメイクのドラアグクイーンも、吐瀉物にたかるゴキブリの群れも、少女の白い肌に刻まれた不恰好な「Love」の文字も、何もかもがその時、石川の心を震わせた目の前の事物であったというだけで、結果として今の沖縄が写っているのに過ぎない。重い砲弾のような、ただただ強力なイメージ。もし、そこから沖縄がはらむ問題のようなものが読み取れたとするならば、それは見る側が持つ沖縄のイメージ、コンテクストに石川の写真を当てはめた結果、図らずも“読めてしまった”だけなんじゃないか。
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