――作品の中で登場する性同一性障害のあずみさんが、非常に印象に残ったのですが、彼女について教えてください。
田中 あずみさんが化粧をとって素っぴんを晒してくれるんだったら、この映画もそこそこいくんじゃないかなという賭けに似た気持ちが撮影当初からありました。あずみさんは会社員だから、あんまり顔はバレちゃまずいけど、「まぁ、いいわ」と引き受けてくれた。梅田の繁華街に素っぴんで立ってという指示を出した時は、こちらにも覚悟が要りましたけど……。それから、他の出演者も徐々に撮り始めていった。撮り続けているうちに色んな変態がいるから、どこで撮り終えるのか迷ったけど。一応、LGBT(女性同性愛者=Lesbian、男性同性愛者=Gay、両性愛者=Bisexual、性転換者・異性装同性愛者=Transgenderの人々を意味する頭字語が由来)を網羅するつもりでいたけど、LGBTの分類自体、その先にさらに細分化されている訳だから、全てを網羅するのはやめようと思った。そう考えた時にイタリアのモンド映画『世界残酷物語』みたいなタッチにしようと決めた。この映画は牛の首を切ってその肉を食べるとか、サルの脳みそを食べるといった、世界にある民族の風俗や奇習を集めたものですが、構成はありません。こんな風俗があるということを断片的な映像で紹介するだけですが、異なるのは『世界残酷物語』にはっきりとした構成がないのに対して、『凍蝶圖鑑』には分かる人には分かる、きっちりとした構成をしている。