空から“白い殺人糸”が降ってくる!? 作家・新田次郎が遭遇した、恐怖の「エンゼル・ヘアー殺人事件」

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■首に巻きついた「エンゼル・ヘアー」が……

 新田が雑誌『日本』(1958年8月号)に寄稿した「聖母の糸(エンゼル・ヘアー)」と題された一文によると、問題の夜、新田は為すこともなく夜空の星座を目で追っていた。そのとき、何か光る物体が彼の目に飛び込んできた。フットボールほどあろうかという完全な球体が、だいだい色に輝きながら一瞬のうちに夜空を横切ったのだ。音は聞こえない。野営中の兵隊の中には、「人魂だ」と叫ぶ者もあったという。そして新田が謎の飛行物体の正体を考察し始める間もなく、キラキラと光る、長さ数メートルの糸のようなものがいくつも降ってきた。そう、これがエンゼル・ヘアーである。

 エンゼル・ヘアーは、やがて不可解な動きを見せる。新田の描写によれば「糸は大地に近づくと共に、異常な速さで、私たちの頭上を廻り出した。なにかをねらいながら、糸と糸とが集合を始めようとしているように見えた」という。とっさにこの糸に触れてはならないと感じた新田は首を縮めたが、彼から5メートルほど離れた場所にいた男の首に糸が巻きつき、苦悶しはじめた。男が手で取り払おうとすると、糸は手について伸びた。助けようとした仲間もいたが、糸に触れた途端、まるで感電したかのように手をひっこめた。男は1~2分で動かなくなり、彼の首にまとわりついている糸の集合体も徐々に光度を失った。あとに残ったのは、何度も引っ掻いた首の傷口から血を吹いている男の死体のみである。火の玉を発見してから男が死ぬまで、わずか5分足らずの出来事だった。

 この恐ろしい事件について新田は、気象観測官らしく「光る物体は流星であり、糸は“雪迎え”と呼ばれるクモの糸だろう」としているが、「白い糸を首に巻きつけて死んだ男については説明がつかない」とも書き残している。一体、彼が目撃した糸は何だったのか。謎は現在も解明されていない。

参考:『日本』(1958年8月号)

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文=羽仁礼

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