魂を抜かれた墓はどこへ行った? 「墓じまい」サービス流行の理由

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 今日本で問題になっている少子高齢化だが、この問題が及ぼす影響は、労働力の低下といった判りやすいものだけではない。日本人の生活習慣に大きな変化をもたらす“意外な問題”が発生しているのだ。それは、墓守(はかもり)の後継ぎががいなくなる墓守不在問題である。

 戦前の価値観であれば、

「家系が断絶するなんて事は絶対に許されない!」

 と、家族だけではなく、親戚一同まで一緒に大騒ぎしたものだが、戦後、欧米の価値観が日本に入り、「個人主義」が一般化した現代では、親戚どころか家族そのものの繋がりも希薄になり“お家断絶”はそれほど大きな問題にはならなくなった。事実、筆者の本家も娘がふたりなのだが、ふたりとも嫁に出してしまったため、七代続いた家系が途切れることが確定したうえ、当然のことながら娘たちに墓守の意思はない。


■墓守がいなくなって、直接打撃を受けるのは?

 また、多くの日本人が「無宗教が当たり前」になりつつある今、墓守がいなくなることをそれほど問題視する者もいない。では、誰が問題視しているのか? 墓地を管理している寺などの葬儀業界である。

 寺の収入源のひとつである墓地区画の使用料は安定した収入源だった。料金形態は寺によってさまざまだが、基本的には墓地の場所によって使用料に格差があり、決められた料金を納められないと、場所を変えさせられるなど、一昔前までは“大名商売”だったのである。

 それが少子高齢化で墓守が減ることによって事情が変わってきた。昔は檀家同士が競って墓地スペースの使用料を払っていたのが、現代は次々と墓守を放棄しているのである。


■墓石屋とのコラボ! 新ビジネス“墓じまい”とは?

 そこで、寺は減っていく墓守の処法として、墓地の使用料を賃貸ではなく、「永代供養」として分譲制にするなどの対策を施した。そして、近年有名になったのが「墓じまい」というサービスだ。

 かつても、墓守がいなくなった家系や、没落して墓地の使用料が払えなくなった人はいて、墓を撤去する「廃墓」は行われていた。しかし、それに比べて「墓じまい」は、寺と檀家が30万円前後で平和的に墓を撤去するシステムなのだ。

具体的には、檀家と僧侶が墓の前で

“魂抜き”

 という、墓から先祖の魂を抜く法要を行い、墓石を“ただの石”にしてから、契約している石材屋が墓石を撤去するのである。

 廃墓を「墓じまい」とネーミングしてビジネス化したのは、関西の石材会社「霊園・墓石のヤシロ」だ。この言葉が「毎日新聞」のコラムに取り上げられ、さらに「Yahoo!ニュース」にも紹介されたのがきっかけで、「墓じまい」という言葉が全国に広まった。

 筆者が「霊園・墓石のヤシロ」に直接問い合わせると、

「商標登録しようと思ったんだけどね、言葉が一般的過ぎて登録できなかったんだよ」

と社長は語ってくれた。今では同業他社の間でも廃墓を「墓じまい」と言うようになるほど広まっている。


■撤去された墓石はどこに行く? 墓石ビジネスの闇とは

さて、撤去された墓石はどこに行くのだろう? 墓じまいビジネスとして寺と提携しているような“真っ当な”業者は、撤去した墓石を粉々に砕いて処理することになっている。

 ただ、墓石の粉砕にはかなりのコストがかかる。撤去から粉砕まで一括で行っている業者はともかく、墓石の粉砕を外部の産廃業者に委託しているケースもあるようだ。そんな産廃業者には悪質な者がいて、墓石のまま不法投棄してしまうという問題が起きている。

 山中や離れ島に打ち捨てられた墓石たちは、本当に魂が抜かれているのだろうか?
(文=ごとうさとき)

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