魚鱗癬 -「Fish boy」と呼ばれたウロコ少年と無償の愛

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魚鱗癬(ぎょりんせん)」と呼ばれる病気をご存じだろうか。皮膚の代謝機能に異常をきたし、表皮細胞が魚のウロコのように角化(かくか)していく、先天性かつ遺伝性の奇病である。一般的な肌は常に新陳代謝を繰り返し、人により若干の違いはあるもののたいていはやわらかく、ましてや人にじろじろと見られることもないものだが、この難病を生まれながらにして患ったベトナムのとある孤児の少年と、遠く離れた血のつながりのない、異国の母との密接な支援関係をご紹介したい。

■言葉は通じなくても――3歳の頃から変わらず注がれる無償の愛

魚鱗癬 -「Fish boy」と呼ばれたウロコ少年と無償の愛の画像1画像は、YouTubeより

 ミン・アン君(18歳)、ベトナムの孤児院で生まれ育ったティーンエイジャーの男の子だ。彼には、その他大勢の若者とは違う特徴があった。それが「魚鱗癬」だ。

 遺伝的・先天的に「肌が角化しウロコ状になる」という、現段階では治療法も原因も特定されていないこの病気は、単に見た目が特徴的という事だけでなく、このウロコが形成されていく段階=皮膚が固くなりヒビ割れていく過程でか耐え難いほどの痛みを伴うものなのだという。

 好奇の目にさらされながらも病と闘っていた3歳のミン君のもとに訪れたのは、思いもよらない相手だった。

 それがブレンダ・スミス(78歳)だった。イギリス人の彼女は夫バズと慎ましやかに暮らしていた。ブレンダ夫妻はともに旅行好きだったため年に何度かは海外旅行に出かける、どこにでもいる普通の老夫婦である。そんな2人がベトナムを訪れた際、“エージェント・オレンジ(ベトナム戦争時に散布された枯葉剤作戦)”による数世代にわたる人体への影響と障害をもって生まれたこどもたちに関する事実を知り、愕然とした。

 以来夫婦は、残り少ない余生をベトナムでのチャリティー活動に捧げようと決意する中、突如として夫バズが心臓発作によって急逝してしまう。愛する夫との突然の別れに悲嘆していたブレンダだったが、孤児を救いたいという彼女の思いは強く、また亡くなったバズの思いを昇華させる意味でも、ベトナムへ戻ることを決意したのだ。


■再訪したベトナムでミンと出会う

 単身ベトナムへ渡ったブレンダはしばらく孤児院でボランティアとして支援していたのだが、そこで出会った、当時3歳だったミンに特別な感情が芽生えたのだという。

「彼は私の膝の上に座りたがっていたの。2時間ほど一緒にいた、私はそこから動きたくなかった。ただ彼に恋をしたのよ」

 当然といえば当然だが、イギリス人のブレンダはベトナム語を喋れず、ミンもまた英語を話すことはできないという。しかしこの2人の間には、言葉の溝を埋めるほどのコミュニケーションの方法が存在していた。

 ブレンダはミンの生活すべてを変えたといっても過言ではない。皮膚がヒビわれていく過程で激しいかゆみや痛みを伴うために、かきむしる行為がいきすぎる可能性から、ミンは1日の大半をベッドの上で、それも拘束されたまま過ごしていたのだ。3人の娘を育てあげた母親であるブレンダはこの方法は間違っていると指摘しすぐさ変えさせたという。

「彼ら(スタッフ)はミンを助ける方法を知らなかった。私は子供をおもちゃや楽しみもなしに、1日中こんなふうに縛りつけられるのなんて嫌に決まってるわ」

 そんなブレンダの熱心な教育と治療の熱意の甲斐あって、スタッフらも柔軟に対応していった。ブレンダがミンを街に連れ出す際に、日帰りであれば可能との許可がおりたのだ。

 孤児院で親族以外でこのような許可が下りることはまれであり、ミンの場合、ブレンダだけが唯一許された人間であるという。

 その後もブレンダは度々ミンを外に連れ出した。レストランでピザを食べたり、洋服を買ったり。施設では感じられない音や風景、においと、ミンの肌にとって心地よい冷たい外気のその全てが新鮮なものであり、暴れることなど一切なく過ごすこともできたのだという。このことにブレンダは「彼には、彼と普通の時間を過ごす誰かが必要だった、それだけなのよ」と語る。

魚鱗癬 -「Fish boy」と呼ばれたウロコ少年と無償の愛の画像2ミン君の手 画像は「YouTube」より

 ブレンダの行動に、首をかしげる人もいた。ブレンダの娘たちだ。なぜ数千マイル、およそ地球の反対側ほどにも離れた場所にいる見知らぬ少年のために、母は時間を捧げるのだろう? 娘からの当然ともとれるそんな問いに、ブレンダはこう答えたという。

「(3ヵ月の滞在期間をすぎて)イギリスに戻るときは悲しいし、私を愛しているミンはそのこと理解してはいるけど、私を待っているはずなの。私が彼の助けとなることができれば彼はもうベッドに縛られることはないから」

 医学的知識が全くないブレンダは、ミンの病への決定的な治療法が見出されるまでに何から手をつければよいのか当然わからなかった。

 しかし、血のつながりもなく人種も違うブレンダでも、母として一人の子供との向き合い方を自然に行ったことで、まぎれもなくミンの家族となり得たのだ。

 3歳の頃ミンと出会ってからというもの、その後毎年ベトナムを訪れ、一緒に旅行に出かけているという2人。言葉も年齢も超えたつながりと不思議な縁の存在に驚くばかりではあるが、同時にそれ以上に、この病気への認知が広まること、何より治療法が発見されることを願ってやまない。
(文=ODACHIN)

参考:「Daily Mail」、「Mirror」ほか

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