【共感覚】「父さんはエンドウ豆、母さんはアイスクリームの味がした」 言葉に味を感じる男の不思議な生活

 知っての通り、人間には五感というものがある。トカナでは、しばしば「六番目の感覚/第六感」について触れることが多いが、これは誰にでも当てはまるわけではない。それと同様に、今回もまた非常に稀な“感覚の話”なのである。5月、米国のウェブサイト「OddityCentral」に掲載された記事をもとに、この不思議なケースを紹介しよう。


■キーワードは脳検査によって証明された“味覚”共感覚

 ジェームズ・ワナートンさんはイギリスに住むごく普通の男性だ。彼に普通ではない部分があるとすれば、それは「音を舌で味わうことができる」という点だろう。

 彼がこの感覚に気がづいたのは、少年時代のことだった。なにか音を聞くたびにさまざまな「味」を感じていたのだという。たとえば歴史の授業でヘンリー八世の2番目の王妃「アン・ブーリン」の名を聞いた時には「強い梨の味」を感じ、「日付」をあらわす言葉は日によって「ハーブやワイン、ガム」のような味に。また「友達の名前」は多くの場合「スライスしたじゃがいもやイチゴジャムの強い味」がしたという。

 物心ついたばかりの当初は不思議でならなかったが、成長していくにつれこの能力は生活の面で彼の助けとなったそうだ。見たものの形や特性、また名前を聞いただけでは覚えられないことも、味と一緒にインプットされるため「記憶しやすい」、つまり記憶力が発達したというのだ。

 それにしてもめずらしいこの能力。そのメカニズムとはいかなるもので、何に起因しているのだろうか?

 エディンバラ大学の研究によると、英国人全体の4%の人々は“共感覚/シナスタジア”と呼ばれる感覚が発現しているのだそうだ。共感覚の最も一般的な例といえば、「ある特定の文字や数字を色にたとえることができる」感覚である。5という数字は黄色、3はオレンジ、といったようにイメージ特殊な能力だ。ちなみに、モーツァルトや宮沢賢治などにも共感覚があったといわれており、日本人は比較的高い割合でこの感覚をもっているという説もある。

 だが、ジェームズさんのケースは「共感覚」の中でも非常に稀なケースだった。前述の「色と文字」ではなく「味と文字」が結びついている“語彙=味覚”共感覚(lexical gustatory synaesthesia)なのだ。だが面白いことに、実はこの状態、誰もが生まれた時には持っている感覚なのだが、成長とともに消えていくのが一般的だそうだ。稀に、脳を損傷後に発生することもあるというが、ジェームズさんのように持ち続ける人は少ない。

 エディンバラ大学のジュリアン・シマ―博士は「共感覚をもつ人々の脳は一般的な人々の脳と異なっています」と語っている。

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