「犯罪者の脳を手術すべき」vs「犯罪者と我々の脳は同じ」

 自ら立ち上げた“トランスヒューマニスト党”の代表として来年の米・大統領選に立候補し、今何かと話題の作家・未来学者のゾルタン・イストバン氏。彼が先頃、犯罪者に対する自説を述べた記事を発表し、一部で議論を呼んでいる。記事によれば、凶悪犯罪者には脳にインプラントを施すべきであるというのだが……。


■イストバン氏「犯罪者を収監せずインプラント手術を施すべき」

 科学技術を用いて人間の身体と認知能力を進化させる「トランスヒューマニズム(Transhumanism)」を提唱する作家で“トランスヒューマニスト”のゾルタン・イストバン氏が、2016年のアメリカ大統領選に立候補して世間を驚かせている。しかも民主党にも共和党にも属さず、独自に結党した“トランスヒューマニスト党”の党首として立候補するという。したがって実際には“大統領候補者”にはなれない(!?)と思われるが、彼の目論見としては今回の選挙活動で知名度を上げて支持を増やし、2020年か2024年の大統領選に本腰を入れて挑む計画だという。

 この動きもあって、これまではSFの中の話として語られることの多かったトランスヒューマニズムが、近未来を予見する社会問題や先進医療の話題としてメディアに取り上げられる機会は増えてきている。

 このトランスヒューマニズムの第一人者ともいえるゾルタン・イストバン氏が先日、情報サイト「Motherboard」に寄稿した論説が世の議論を招くことになった。記事には凶悪犯罪者の脳にインプラントを埋め込んで再犯を防止すべきであるというイストバン氏の自説が述べられていたのだ。

「犯罪者の脳を手術すべき」vs「犯罪者と我々の脳は同じ」の画像1てんかん患者へのインプラント手術を報じるニュース 「FOX News」より

 前提としてイストバン氏は死刑制度に反対しており、現在でもなお31の州が死刑制度を撤廃していないことに異議を唱えている。そして今後20年で脳へ直接電気信号を送りこんで感情・行動を制御できる技術が開発され、またその機器は脳に埋め込むことができることを予見している。そしてまさにこの機器を犯罪者の脳にインプラントして感情をコントロールし、再犯を未然に防ぐべきであると主張しているのだ。

 昨今は聴覚障がい者のための脳幹インプラント技術が進んでおり、イストバン氏によればすでに50万人(5万人の間違いか?)に近い人々にこの処置が施されているという。また、アメリカでは難治性てんかんを緩和したりアルツハイマーの症状を軽減する頭部埋め込み型の機器も実際に使われているということだ。そして近い将来に確実に開発される感情を直接コントロールできるインプラント機器を、犯罪者の感情を制御するために用いるべきであるというのだ。

 科学技術と人体の融合を目論むトランスヒューマニストならではの主張だが、これには国家財政を圧迫している刑務所の運営費の大幅な削減に繋がるメリットもあるという。インプラント手術をした犯罪者は収監しなくてよいことになるからだ。ちなみにアメリカでは刑務所の運営費は義務教育予算の4倍にものぼっているということである。犯罪者には脳にインプラントを埋め込んで再び社会に戻すというイストバン氏の主張は確かに様々なメリットがありそうだが……。

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