魂の重さは本当に21グラムか?死の瞬間を計測し続けた科学者のもうひとつの発見
懐疑派を代表するクラーク博士によれば、死の直後は呼吸が止まって血液の冷却が止まるので、一時的に体温が上がって発汗が促進されるという。この一時的な発汗の水分が“21グラム”だと主張している。これに対してマクドゥーガル博士は死の直後には血液の循環も止まっているので体温は上がらないと反論。こうして読者の支持を二分した公開紙上討論がその年(1907年)いっぱい続いたのだ。
新聞読者の多くの支持を受けていた“21グラム”説だったが、やはり学問の世界では疑問視する声が多く、「Snopes.com」などの記事によれば、秤の性能を含む実験環境への疑問から、少ないサンプル数を指摘する意見、計量した6人のうち望ましい結果になった1人のケースだけが発表されているのではないかという嫌疑などが幾人かの学者によって発せられていたようだ。
■死の瞬間の人間の頭部には「星間エーテル」にも似た光が取り巻いている
止むことのない批判の声に晒されて、マクドゥーガル陣営はいったん沈黙を余儀なくされるかたちになったということだが、1911年に再びマクドゥーガル博士が「The New York Times」の一面トップを飾ることになる。今回の実験では魂を重さを計るのではなく、魂の写真を撮影していることを発表したのだ。つまりマクドゥーガル博士は次の段階の実験として患者の死の瞬間を撮影しているというのだ。
どのような写真が撮られたのかは情報が少なくてよく分からないのだが、マクドゥーガル博士は十数人の末期患者の死に立会い、実際に死の瞬間を撮影したという。博士によれば、死の瞬間の人間の頭部には「星間エーテル」にも似た光が取り巻いているという。この光が肉体から離れていく“21グラム”の魂であるというのだ。ちなみに星間エーテル(interstellar ether)とは中世の物理学の概念である“エーテル理論”に基づく天界を構成する物質のことだ。もちろん現代の科学では否定されている。
……この新たな実験は人々をなかなか複雑な心境にさせたのかもしれない。つまりこの実験でマクドゥーガル博士は完全にアカデミズムとは離れた“あっち側”の人間として認識されることになってしまったようなのだ。しかし一部のオカルト好きの間では博士を根強く支持する者も少なくなったという。ともあれこの9年後、マクドゥーガル博士は54歳という若さで亡くなり、その魂は文字通り星間エーテルへと還っていったのだ。
しかしマクドゥーガル博士の研究に対する情熱と“21グラム”の魂はその後の脳科学や実験心理学といった学問の分野をはじめ、小説やマンガなど様々なジャンルで今日でも影響を与えている。2003年にはこの“21グラム”のアイディアに触発されたというその名も『21グラム(21 Grams)』という映画も製作された。百年前よりは着実に進んだ科学技術の恩恵を受けている我々であるが、一方で広大な宇宙の96%は我々には観測できない物質であるダークマターとダークエネルギーで満たされているという学説が我々に衝撃をもたらしている。この宇宙の96%がまだ人間には理解できていないとするなら、中世の“エーテル理論”を時代遅れと一笑に付すことはできないとも言えそうだ。科学だけではなく、政治、経済の混迷も深まりを見せている昨今、むしろ時代はマクドゥーガル博士の情熱を必要としているのかも知れない。
(文=仲田しんじ)
参考:「Discover」、「Snopes.com」ほか
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