「落書きの家」― 家の壁面に書かれた怪文書

「落書きの家」― 家の壁面に書かれた怪文書の画像8

「異常と猟鬼」

「1983年に倒産した「株券は紙くず」

「1山一證券2北海道拓殖銀行3東京相和銀行 無配当の超優良株今年で14年こんな事有りか?」

「2月15日2230151円 ―税16万7255円 入金206万2896円」

 と、サイズのバラバラな文字があちらこちらを埋め尽くしている。またもや「1983年」の登場。また、山一や拓銀など、90年代後半に相次いで事実上の破綻を迎えた巨大企業が並べられていることから、少なくともこれらの文字はそれ以降に記されていたものであると考えるべきであろう。また、同じような内容は、屋敷の側面壁にも記されており、こちらの方は「紙クズ拓銀だけでも配当3000万円10年で3億円を盗み ニセ倒産 無配当の三社 恐喝東京相和銀行社長達北海道拓殖銀行山一證券」といった倒産ラッシュの世相への批判を想起させる批判的なメッセージが数多く並んでいる。

 ちなみにそのほかのところとしては、「ガラス なぜ割る」という意外と普通のメッセージや、別棟の小屋状の建物に記された「なぜ自民 飲食物水道に 消えた製造年月日 薬物23(7)年」という、一見、短歌か何かのように見えて実際のところそうではないという怪文も出現しているが、こちらについては無論、その文意は判然としない。雑誌『AERA』の中吊り広告に付された駄洒落入りのキャッチコピー的な要素を持っているのではないか? とも考えたがどうやらそれは考えすぎであったようだ。

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 このように、今回「落書きの家」の「落書き」を、改めてひとつずつ確認していったが、そこから読み解けるのは、当家の家人が、もともと大勢に対する批判精神に満ちた人物であり、ここまで「極める」前の段階においても、独特な主義主張を持つ人物であったことが想像できるという点だ。それが事故か病かによってバイクに乗れなくなったり、風呂に入っていても落ち着かないような恐怖に怯えたり、行政の担当者に対して怒りを覚えたりといった人生を歩んだことにより、あるいは、自身を突き動かす「表現」への情熱から、こうした1軒丸ごと使った作品、すなわち、そのパーソナリティと、辛酸と苦渋に満ち溢れた時間によって紡がれた軌跡を、生み出すに至ったのではないか? と、朧げながらではあるものの推測できる。

 もしかすると今の世のように、インターネット上だけでも、自らの表現が造作なく行える時代に彼が育っていたら、外の世界に向かって行う表現は、また別の形となって、我々の眼前へと、その姿を現したかもしれない。しかし、そうは言っても、これはあくまで推測の域を出ない話。それこそ、本人にじっくりと話を聞いてみないと、いや、聞いてみたところで、それは正確な答えというものが、何ひとつ、見出せない性質を持ったものなのかもしれない。
(写真/文=Ian McEntire)

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