パレスチナ革命に身を投じた伝説的映画監督・足立正生が語る「テロと宗教と切腹集団“死のう団”」とは?
さまざまな解釈を可能とするカフカの著作「断食芸人」を、1960年代に“アングラの旗手”として知られ、後にパレスチナ革命に身を投じた伝説的映画監督・足立正生が原作から1世紀の時を経て映像化。2月27日より渋谷ユーロスペースを皮切りに、全国32カ所で上映される。これは、『幽閉者 テロリスト』(07)以来の約10年ぶりの監督作品となる。
●ストーリー
ある日、ある街の片隅に1人の男がフラフラと現れ座り込んだ。そこに1人の少年がかけより問いかける。「おじさん、何してるの?」その問いかけに、返事をするどころか何の反応もせずにじっと虚空を見つめている男。その写真を少年がSNSに投稿すると、翌日から男の周りには次々と人が集まってきて、男はちょっとした有名人になっていく。「この男は一体何をしているのか?」人々はそれぞれの持論を繰り広げ、勝手に「断食芸人」に仕立てあげていく。
といった内容で、足立ワールドの中に、コミカルな部分なども盛り込まれ、今までの足立作品とはまた一風変わった印象もある作品になっていて、観客が自由に受けとめられ、何度も観たくなる素晴らしい作品である。
そこで公開前に足立正生監督に、映画の話のほかにもパレスチナゲリラ時代の話、若松孝二監督との友情や、国際指名手配されていた話、ISのことなど色々な話を伺ってきた。このインタビューを読み映画を観ることで、より深く足立監督の想いが伝わるのではないだろうか。(第2回/全3回)
・ インタビュー第1回:「3.11以降に自覚された“恨めしい思い”を描いた」カフカ原作映画『断食芸人』で描かれた恐怖
■やっぱり神は信じたことがない
――この映画には宗教観が出てると思いますが、監督の宗教観について教えてください。
足立監督(以下、足立) 私は元々無神論者だし、家は浄土真宗。
――パレスチナにいってゲリラをやられていたので、やはりムスリムになったんですか?
足立 いや、ならないですよ。向こうは宗教婚しかないから、向こうで結婚するために洗礼を受けないと結婚できない。そのためにギリシャオーソドックスのクリスチャンになるんですよ。だから私はクリスチャンですよ。
ギリシャ正教に入信したっていうのを認めるための、7項目の試験があるんです。向こうで刑務所入ってるときに、牧師が通ってきてね。俺も本とか読んで宗教ってものを勉強するのが好きだから興味はあるしね。「ただ神様を信じるかどうか」でしょ?
7項目の質問のうちの最後の項目が「君は神を信じるか?」って質問なのね。「君は神を信じるか?」って言われたらどうする? 牧師は俺がマルクス・レーニン主義で無神論者だって知ってんのよ。それでその質問されたときに「試験に通らなかったら結婚もできないし困ったなぁ」と思ってねぇ。
刑務所の中で私は医者をやってて、みんなが房に入れられたあと歩きながら考えて「やっぱり神は信じたことがないっていうのを言わざるを得ない」と決めて部屋に戻ろうと思ったら、ピカーッっとひらめいたの。「日本には古来からとても素晴らしい教えで、今はことわざとなっている『困ったときの神頼み』っていうのがある」ってね(笑)。
それを答えにして「よし、これでいこう」と思ったらさ、牧師は「神なんて信じない」って言われたら困るから、7番目の項目「君は神を信じるか?」は質問されなかった(笑)。
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