「3.11以降に自覚された“恨めしい思い”を描いた」カフカ原作映画『断食芸人』で描かれた恐怖 足立正生監督インタビュー
さまざまな解釈を可能とするカフカの著作「断食芸人」を、1960年代に“アングラの旗手”として知られ、後にパレスチナ革命に身を投じた伝説的映画監督・足立正生が原作から1世紀の時を経て映像化。2月27日より渋谷ユーロスペースを皮切りに、全国32カ所で上映される。これは、『幽閉者 テロリスト』(07)以来の約10年ぶりの監督作品となる。
●ストーリー
ある日、ある街の片隅に1人の男がフラフラと現れ座り込んだ。そこに1人の少年がかけより問いかける。「おじさん、何してるの?」その問いかけに、返事をするどころか何の反応もせずにじっと虚空を見つめている男。その写真を少年がSNSに投稿すると、翌日から男の周りには次々と人が集まってきて、男はちょっとした有名人になっていく。「この男は一体何をしているのか?」人々はそれぞれの持論を繰り広げ、勝手に「断食芸人」に仕立てあげていく。
といった内容で、足立ワールドの中に、コミカルな部分なども盛り込まれ、今までの足立作品とはまた一風変わった印象もある作品になっていて、観客が自由に受けとめられ、何度も観たくなる素晴らしい作品である。
そこで公開前に足立正生監督に、映画の話のほかにもパレスチナゲリラ時代の話、若松孝二監督との友情や、国際指名手配されていた話、ISのことなど色々な話を伺ってきた。このインタビューを読み映画を観ることで、より深く足立監督の想いが伝わるのではないだろうか。(第1回/全3回)
■3.11で日本の経済神話が崩壊した様を描いた
――映画の最初の映像が、3.11東日本大震災の津波の映像と、福島原発の爆発している映像じゃないですか?なぜあの映像を使用したのですか?
足立監督(以下、足立) アメリカでは9.11で、みんな狂気の「反テロだ!」とか言って全員が殺人鬼になるじゃない。日本では3.11で、原発の安全神話だけじゃなく、日本の30年の経済神話が全く根元から壊されたっていうのはあるよね。
時代の権力を持ってるヤツは危機感を持ってはいないけど、そういうのを恐ろしく感じながら生きてきた僕らは、そういった神話の崩壊の前で「何が言えるのか?」というのをみんな問うたと思うのね。
原発っていったら「地獄の釜」じゃないですか。原爆と同じなんだから。その釜の上に蓋をして、廃れ行く廃村でコミューンを再建するとか美しいことを言いながら、地獄の釜の上に住むことになるのを知りながらやってきた神話が全部壊れた。
そうすると、言えるのは「反原発」っていう言葉、想いぐらいしかないんだけど、「反原発」というような言葉で出せない、人々が持ってる「恨めしい気持ち」。この「恨めしさ」の中身を映画にしたいと思ったね。
「安保法制反対」とか「辺野古基地反対」とか色々言っても、まさにアバンギャルディッシュに政治の言語を軽々しい言葉に変えてしまった安倍の前では、何を言っても軽いんですよ。
そうすると、そういった「怨嗟のまなざし」を言えるのは映画とか音楽とかそういったものでしか突き出すことはできないっていうのがあってね。
それを文学やる人、美術やる人、音楽やる人、みんな考えたと思う。
3.11以後って「本当に言葉を発することができるか?」っていう悩みを、みんな持ってると思うんだけど、言葉を発しない、発することもできない「民の恨みのまなざし」をテーマにしたいというのがあったんだよ。だから、原発の前に恨んでるのか、怒ってるのか、恥じらってるのかわなんないまなざしで立つ人と、その後ろに日章旗があるという画(え)にしたの。
――それじゃあ、全体的にテーマはやっぱりそこなんですか?
足立 そうですね。ですから出てくる主人公が、どこからきてどこにいくのか、何をしてたヤツなのか、何をしたいのか、何もわかんないでしょ?
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