荒木飛呂彦になれなかった、もう1人の天才漫画家 ― 巻来功士が語る「少年ジャンプ舞台裏と表現規制と…」

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■荒木飛呂彦の怪作と天秤にかけられて

――改めて子どもの記憶って曖昧だなと思うんですが、個人的には『ゴッドサイダー』もかなり長く読んでいたような記憶がありますね。

巻来「いや、あれも短いんです。1年半ですから……」

 そう、急転直下の『メタルK』打ち切りに続いて、『ゴッドサイダー』も数奇な運命を辿る作品になってしまうのだ。なんと、当時『ジャンプ』に連載されていた“もうひとつの怪作”と天秤にかけられ、巻来氏はその時の担当編集だったK氏より、「『ジャンプ』にホラー漫画は2ついらない」という宣告を受けてしまうのだ。そのもうひとつの“ホラー”とは、現在にまで続く荒木飛呂彦氏による超大ヒット作『ジョジョの奇妙な冒険』である。

巻来「不思議ですよね、スポーツ漫画が2本あっても何も言われないじゃないですか? ギャグマンガだって『2本あっちゃいけない』なんて言われない。ホラー漫画だけですよ、『2本も必要ない』って言われたのは」

 それ以来、『ジョジョ』を見る目が変わったという巻来氏。

巻来「もともと意識してたのは『ブラックエンジェルズ』だったんですけど、Kさんに言われてから、“ああ、これに勝たなければいけないんだ”って思うようになりましたね。『ジョジョ』をガン見したのはそれ以来です(笑)」

 ただ、作品として『ジョジョの奇妙な冒険』は、それ以前から好きだったという。

巻来「『ゴッドサイダー』の始まる前から読んでいましたが、荒木さんの作品は好きでしたね。というか、僕は変な漫画を描く人が好きなんで、“よくこんな作品が『ジャンプ』に載ってんなぁ”っていう意味で好きでした」

――確かに『ジョジョ』の最初の頃は、現在のバトルものとは違って、クラシックな人間ドラマでしたからね。

巻来「僕はもう大人だったから当時の『ジョジョ』の元ネタもわかるし、いろんな意味でおもしろいんですよ」

――代表的な元ネタはシェイクスピア作品等ですね。

巻来「そうそう。ホラーものだし、吸血鬼ものでもある。やっぱりその辺は俺も描きたい漫画だったんですよ。それで“これ凄いことやるなぁ……”“でもこんなことやってたら絶対10週で終わるよ……”って思って見てたのが、終わらない。あれ、まだ続いてると

――この間のイベントでお聞きした限り、連載当初の『ジョジョ』は、そんなに人気もなかったといいますね。

巻来「『ジョジョ』は今でこそ“『ジャンプ』を背負って立つ”って言われてますけど、当時は俺と荒木さんの“どっちを終わらせよう?”って言われてたくらいなんで、人気はなかったんですよ。『ゴッドサイダー』も『ジョジョ』もだいたい同じような感じで、“いつ終わらせようか?”っていう作品だったんです」

――ではいつ頃から2つの作品の関係が変わったんですか?

巻来「編集さんのアドバイスを受けてバトル漫画になったあたりからじゃないでしょうか? たとえば、“スタンド”は荒木さんが完全に少年漫画家になった証明ですからね」

――いわゆる必殺技の類ですよね。

巻来「まさに必殺技ですよ、あれ、最初のテーマからは全く関係がない。でも『ジャンプ』の漫画は全部そうやって変わっていくんですよ。『キン肉マン』だって、最初は格闘技なんてあまり真剣にやってない。『魁! 男塾』もそうですよね。『北斗の拳』から続く、バトル漫画の伝統にのったっていうことなんです。その時から荒木さんの気持ちも確実に変わりましたよね。今まで何やってもいけなかったところにいけるようになったから……」

――人気のトップの方にということですね。

 結果として、巻来氏の入魂作『ゴッドサイダー』は約1年半でその連載を終え、編集者との共同作業に成功した『ジョジョの奇妙な冒険』は連載開始から28年も経った現在も続いている。

――やはり編集者との共作が、大きなヒットを生んでいたんですね。

巻来「そうそう」

――そこで“この担当編集さんのために描こう!”ってなれなかった巻来さんは外れていったってことなんですか?

巻来「そう思いますね。あの頃の『ジャンプ』に残れたのは、純粋に“少年漫画でこういう理想が描きたい!”って人ですよね。俺のように“潰れないところに行こう”って『ジャンプ』に行くような黒い感じじゃないんでね

――『潰れないところに行こう』(笑)。

巻来「でも『潰れない一流出版社がいいな』って思ったのは確かだけど、その時の『ジャンプ』を見たら『ブラックエンジェルス』があって、“これならやっていけそうだ”って思ったのと同時に、“こんな漫画が描きたいなぁ”って思ったんです。なんせその頃は『ストップ!! ひばりくん!』もやってましたからね。今でいう“LGBT漫画”ですよ」

――確かにそうですね、その当時は少年誌の領域をはみ出たものも許容してたんですね。

巻来「いや、それがあったのは『ジャンプ』だけですよ。だからおもしろかったんです。他はホントに“少年誌はこうあらねばいけない”というものばかりでしたね。『サンデー』もそうだし。俺らが好きだったのはその前の『サンデー』で、『がんばれ元気』とか暗い漫画も載ってて、『番外甲子園』っていう凄い劇画チックな甲子園漫画だったり、『牙戦(きばせん)』っていう殺し合いの野球漫画だったり。『牙戦』は誰が描いていたかっていうと、あだち充さんですよ」

――えっ、そんな作風のものを描いていたんですか!?

巻来「その頃のあだちさんは全くタッチが違う、いやこれはシャレじゃないですよ(笑)。もの凄い劇画調の作品を描いていたんですけど、あまり売れなかったんですよ……それで少女漫画に1回いって、『陽あたり良好良好』を描いたらウケたんですよね。そこからは少年誌に戻ってきて、今はずっと変わらずですからね」

――やはり、漫画家さんもいろいろ紆余曲折があるんですね。売れたところで、作家性が固まるというか。

巻来「そうそう、それはあるんですよね。そしてそれは1人じゃ絶対できない。いい編集者がいて、“これやったら絶対いける!”とか“こっちやろう!”っていうので、漫画家も変わっていける。漫画家と編集の信頼関係があって初めて、漫画家は脱皮できてるんですよ。1人じゃどうあがいても客観性は出ないんで、わかんないんですよ、どの方向に行っていいか……」

――漫画家さんには、それぞれに個人プロデューサーが付いているようなものなんですね。

巻来「そう、それが付くか付かないかっていうのは漫画家人生に於いて大きいですよ」

――それを聞くと、巻来さんの“また担当が変わった”っていう話が、改めて大きなことだと感じますね。

巻来「そうなんですよね……」

 巻来氏に縦糸を紡ぐ“自己プロデュース能力”があったことがよいことなのか悪いことなのかはわからないが、『ジャンプ』のような場所に於いては、巻来功士は極めて珍しい部類の漫画家だったといえるのだろう。


■友情・努力・勝利の裏側――巻来功士の世界とは

――よく巻来さんの作品は『ジャンプ』の掲げるテーマ《友情・努力・勝利》とは相容れないと言われてますよね?

巻来「うん……まあ“友情・努力・勝利”もいいですよ。でもそれはアンチテーゼとして言えば、大賛成ということですよ。友情とは大変なものだし、努力は変な方向にいけば従属か奴隷か、最近の体育教師の虐待問題のような話になりますよね。勝利、これは一番胡散臭くて、“勝利とはなんだ”と問いたいですね。人に勝ったことを勝ち誇るっていうのはホントにある世代から後の話で、勝利もいいんだけど、その裏にある虚しさ、哀愁も含めて描かれた勝利じゃないと、作品としておもしろくないじゃないですか?」

――勝者の孤独という暗く悲しいテーマですね。

巻来「絶対そうでしょ、だから清原もあんなことになっちゃったでしょ」

――あ、それですか(笑)。

巻来「あの人も勝利しか知らない勝者だったから、ストレスがどんどん溜まっていったわけですよ」

――確かに、夢だった巨人に入った瞬間、勝利した瞬間に敗者になるという、よくできた話ですよね。

巻来「あれこそがドラマ、“人間の真実”ですよ。やっぱり、勝利しか知らなかった人は挫折なんかわからない。だからみんなもそういう目で見ないといけないんです。“勝利も胡散臭いんだよ”ってことを思っておかないと、どんなに高い技術力を持っててもああいうことなってしまうんですよ」

 最後に、改めて巻来漫画のルーツについて聞くと、極めて『ジャンプ』感のない答えが返ってきた。

巻来つげ義春さんが好きなんですよ。僕にとってつげさんは神なんです

――えっ、そんなお話、あんまり『ジャンプ』界隈で聞かないですよね。

巻来「いや、そんなヤツ『ジャンプ』に行かないでしょ(笑)」

――それもそうですね(笑)。

613gsqv85GL.jpg画像は、『つげ義春: 夢と旅の世界 』(新潮社)

巻来「つげさんが好きだったのは中学から高校にかけて、『ゲンセン館主人』『ねじ式』『紅い花』『李さん一家』……新しいところでは『無能の人』も大好きだし、全部読みましたよ。傑作だらけでね。僕は大学の時に作ってた同人誌がありまして、『鉄道おじさん』っていうんですが、つげ義春さんへのオマージュになってるんです。だから、心の救いを求めたい時にはつげさんの漫画を読むんです。だけど、そういう時は、あまりいい状態じゃない(笑)」

――なんとなくわかります(笑)。

巻来「いい状態じゃない時に観る映画ってあるんですよ。観たいけど我慢してるっていうね。引退してから観たいっていう。僕にとってそれがなにかっていうと、『男はつらいよ』なんです」

――ええーっ、これまた意外ですね……。

巻来「もうホントね、大好きなんですよ。最初の方の『男はつらいよ』ですよ。最後の方も観てるんだけど、1とか2のね、寅次郎があんないいおじさんじゃなくて、ヤクザの頃のですよ。寅次郎非道いヤツですもん。もうね、観てていたたまれないんですよ。異分子なんで、変なところで我を出して、話を滅茶苦茶にする。“そうだな、テキ屋だもんなぁ“っていうそこまで描かれた作品だから、あそこまで続いたんですよ」

――それはシリーズ終盤の『男はつらいよ』のイメージとはかなり違いますね。

巻来やっぱり人間っていうのは裏もあって当たり前なんだから、そこまで描いて始めて大人の鑑賞に堪えるものなんですよ。最近“『あぶない刑事』の続編がヒット”なんて聞くと、“なんでいい大人がこんなものを……”って信じられない気持ちになる。あれ子供のもんでしょ、同一に並ぶのは仮面ライダーとかそういうものですよ。僕には、大人が表だけ描いたものを観て楽しんでるのがホントにわからないんですよ」

 この他にも日本のエンターテインメントの現状、そして人間の闇についてを語り続けた巻来功士氏。新作についての話を聞いてみると、「今の時代に、ベトナム戦争ものをやろうと思って打ち合わせしています」とのことだった。“不遇”とも“奇跡”ともとれるジャンプ時代の経験を新著『連載終了! 少年ジャンプ黄金期の舞台裏』で精算した今も、その当時と変わらぬ《人間の闇への欲望》は、溢れ続けているようだ。

 つまり、巻来功士が『男はつらいよ』をダダ回しで観続ける日は、もうしばらくは訪れそうにないということだ。
(文・写真=福田光睦/Modern Freaks Inc.代表・@mitutika
https://twitter.com/mitutika

巻来功士(まき・こうじ)
1958年7月21日生まれ。長崎県佐世保出身。1981年『少年キング』(少年画報社刊)誌上にて『ジローハリケーン』で漫画家デビュー。その後黄金期の『週刊少年ジャンプ』に移籍し、『メタルK』『ゴッドサイダー』等の作品を発表。短期間ながら“トラウマ漫画”と呼ばれる強い個性で今もカルト的人気を誇る。その他の作品として『ミキストリ-太陽の死神-』『瑠璃子女王の華麗なる日々』『ゴッドサイダーサーガ 神魔三国志』等。自身の自伝的漫画作品『連載終了! 少年ジャンプ黄金期の舞台裏』(イーストプレス刊)が絶賛発売中。
公式ウェブサイト=http://www.sokaido.com/makikoji/
公式Twitter@godsider1

rensaisyuryo.jpg連載終了! 少年ジャンプ黄金期の舞台裏』(イースト・プレス)
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コメント

7:匿名 2016年3月31日 03:14 | 返信

いや、単純に巻来功士は時代に合わなかっただけだと思う。劇画の全盛期が過ぎ、ブラックエンジェルズも終わった後であの劇画チックな線の太い絵はちょっと時代遅れになりつつあった。そんな中、北斗の拳は高い画力でマッドマックスとか洋画のテイスト取り入れてるし、荒木飛呂彦も絵からして他の漫画にあまりないような独特の味があった。
 エログロなんて言うけど、もっと前から永井豪とか首飛ばしまくりだったし、秋山ジョージも少年誌で過激なの書いてた。エロだって当時の月刊少年漫画のエロ枠に比べりゃ大人しいもんだよ。

6:匿名 2016年3月25日 20:43 | 返信

不発だと勘違いして重複投稿してしまいました。すみません。

5:匿名 2016年3月25日 20:34 | 返信

編集の肩を持つわけではないけど、ホラーとかバイオレンスの要素が強い作品はプロデュースが難しい。カタルシスの得どころが一般的になりにくいし、暴力や残虐の本質をまだ理解できていない子供だけにそうした要素に魅せられてしまう可能性も高いし、大人としてそういう要素に頼ろうとしなくても過度に保守的だとは思わない。

荒木作品なら『バオー来訪者』巻来作品なら『メタルK』から読み、他にもジョージ秋山の『海人ゴンズイ』、ゆでたまごの『闘将!!拉麺男』、泥臭&エロの『必殺!興農寺拳法』とか、逆に絵はシンプルめだけどドラマ重すぎな『死神くん』とか、当時小学生だった自分には表面的なインパクトでしか理解できてなかったけど、今尚記憶に焼きついている。『シェイプアップ乱』の徳弘正也が『狂四郎2030』を描いた時には喜んで読んでいた。

今でこそ『進撃の巨人』が大出世し、『血まみれスケバンチェーンソー』が映画になるご時勢で、巻来作品も当時から記憶に残している人がいるからこそこうした機会もあるのだし、これからも我が道を歩んでほしい。巻来先生による『男はつらいよ』コミカライズを妄想するのも楽しいけど。

とりあえず>1の方は当時から読んでいた?

4:匿名 2016年3月25日 20:05 | 返信

編集の肩を持つわけではないけど、ホラーやバイオレンス要素の強い作品って、他ジャンルの漫画と比べてカタルシスの得どころや方向性が一般的になりにくい傾向があるからプロデュースする側としては難しいと思う。ましてや低年齢層相手では敬遠しても責めにくい。残虐の意味を理解できていない子供だからこそ残虐に魅せられてしまう可能性を持っているのも子供の感性だし、そういう要素に頼ることに大人が二の足を踏むのも至極当然かと思う。

荒木作品だと『バオー来訪者』巻来作品だと『メタルK』から読み、他にはジョージ秋山の『海人ゴンズイ』とかゆでたまご作品なら残虐描写最強の『闘将!!拉麺男』泥臭&エロの『必殺!興農寺拳法』とか、当時小学生だった自分には表面的なインパクトでしか理解していなかったけど、どれも今尚記憶に焼きついている。
今でこそ『進撃の巨人』が大出世し、『血まみれスケバンチェーンソー』が映画になるようなご時勢だけど、あの頃のホラグロバイオレンスの作品の大半はジャンプの勢力をもってしてもまだ早過ぎた感がある。
巻来先生も何だかんだいって記憶に残している読者がいるからこそ今でもこうした機会があるのだし、このままホラー&バイオレンスの道を走りつづけてほしい。巻来先生による『男はつらいよ』コミカライズがどんなものか妄想するのも楽しみだけど。

とりあえず>1の方は当時に読んでた?

3:匿名 2016年3月24日 12:19 | 返信

ジョジョよりメタルkが好きでしたよ!

2:匿名 2016年3月23日 19:51 | 返信

「メタルk」の単行本を今も大切に持っている45才です。連載中に中島みゆきの歌詞が使われてるエピソードがあって、印象的でした。が、単行本では歌詞はカットされていて、子供心に大人の事情を感じとったなぁ。

1:匿名 2016年3月23日 17:19 | 返信

ただの高二病ですな。
「自分は大人」をやたらアピールしたがる心理からして、それをまだ引きずってる。
少年誌のテーマ「友情努力勝利」を斜に構えて「偽物」「俺はそれとは違う本物を知ってる」と見下すことで、必死に自分の実力の無さから目を背けてきただけ。

編集の変動や縦糸どうの、大人だったからどうのと、自分には編集に媚びへつらい、時代に迎合して成功を手にした奴らとは違う「成功できずとも仕方のない事情があった」ことをアピール。
それを聞こえ良い言い訳として披露しつつ、更に特別感まで演出してまた自己防衛。
同じ高二病の匂いをかぎつけて寄ってきた数少ない信者を引き連れて、影の実力者気取り。

安いプライドで出来てるメッキ剥ぎ取れば、残るのは単に力がなかった小心者が残る。

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