複数の命を助けるために1人の命を犠牲にできるか? この質問の答えでアナタの“人望”が判明する!
■法令遵守の精神は人間にとって“不自然”だった!?
オックスフォード大学博士課程学生のジム・エベレット氏とモリー・クロケット博士、米コーネル大学のデイビッド・ピサロ博士からなる研究チームが学術誌「Journal of Experimental Psychology: General」で発表した研究は、このトロリー問題に心理学及び神経科学の立場からアプローチしている。トロリー問題をはじめとする9種類の論題について、2400人以上の実験参加者の解答を分析したところ、義務論の立場をとる人物はより信頼に値する(と見なされている)人物である傾向が明らかになったということだ。
つまりトロリー問題では、5人の命を助けるためであっても1人の命は奪えないという、あまり英雄的行為とは思えない“傍観者”が、意外にも普段は周囲の信頼を勝ち得ているということだ。これはいったいどういうことなのか?
実際のところ、実験参加者の多くは1人の命を犠牲にしてでも5人の命を助ける功利主義者の立場を選択しており、人間の本能に従った価値判断としてはこちらのほうが自然であると考えられているという。驚くべきなのかどうかわからないが、心理学の見地からは大半の人間はその場の全体の利益を優先する功利主義者だったのだ。それが意味するのは、極限状況の下では“殺人”を犯すこともじゅうぶんにあり得るということだ。
ではなぜ、一部の少数の人々は人間として“不自然”でありながら、義務論の立場をとるのか? 決して少なくない心理学者たちは、義務論の立場は人間として不合理な感覚から来るものだとさえ主張している。しかしそこでエベレット氏が唱える新たなキーワードは“人望”と“公人”という尺度である。
これはひょっとすると“公私”を使い分けている人が多いと思われる日本人にはわかりやすいことになるのかもしれないが、周囲から“人望”を集める“公人”の立場にある人物は、ある意味で自分の本能に逆らってまでも“法”(この場合は殺人を犯さない)を遵守する立場を貫くというのだ。したがって、例えば政治家や組織のリーダーなど広く周囲から人気や人望を博している人物ほど、義務論の立場をとるということになる。もしアナタが罪もない人間を殺せない義務論の立場を選択するとすれば、程度の差こそあれアナタはそれなりにリーダーの立場にあるのかもしれない!?
しかしながら、もちろん複雑な人間行動にまつわる事柄であることから、例えば判断する本人自身が死を恐れていない人格であることなど、一筋縄ではいかない例外も多いことが考えられる。また周囲が求めるリーダー像もそうそう単純なものではなかったりもするだろう。しかしそれでも、このトロリー問題などのモラル・ジレンマ(moral dilemmas)は、政治哲学や倫理学などの分野だけで議論するのではなく、広く精神科学一般の観点から切り込んでいけるものであると提案したことには大きな意義があると言える。
そしてこのような観点に立てばモラルや道徳はその人の地位や立場に大きく関わっているということになり、“道徳教育”の必要性にも議論の余地が出てきそうだ。いっそのこと小学生の道徳の時間は、公共性の意識付けとして“マナー講座”がよいのでは!?
(文=仲田しんじ)
参考:「Daily Mail」、「オックスフォード大学」、ほか
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