偉大な哲学者ジェレミ・ベンサムのミイラ化した頭が“手荷物”として機内に持ち込まれる?

 空港のセキュリティ体制は、年々厳しくなる一方だ。そんな中、たった1人の迷惑客のせいで、保安検査場に長蛇の列ができることもしばしば。最近ではそんな無用の混乱を避けるため、前もって航空会社に持ち込み手荷物について問い合わせをする人も増えてきているというが、中には信じがたい代物を片時も離したくないという人もいるようだ。


■ミイラ化した人の頭は機内に持ち込める?

 英紙「Daily Mail」(7月27日付)によれば、ニューヨークのブルックリンに住むサム・ラヴィーニュ氏は、TSA(米国運輸保安局)に対し、「ダメでしょうか、このミイラ化したジェレミ・ベンサム氏の頭部を機内に持ち込むというのは? ご検討ねがいます」とツィッターで質問したという。

偉大な哲学者ジェレミ・ベンサムのミイラ化した頭が手荷物として機内に持ち込まれる?の画像1ジェレミ・ベンサム氏の頭部!? 「Daily Mail」の記事より

 ちなみに、このジェレミ・ベンサム氏だが、英国の哲学者で功利主義の創始者にしてサタニスト(悪魔崇拝者)という御仁で、184年前の1832年に亡くなっている。

 これに対しTSAは「大丈夫です。ちゃんと包装されて、荷札がついていれば。あと、申告はお願いします」と、素早く返したそうだ。オトナな対応とはこのことだろう。

 しかし、なぜジェレミ・ベンサムのミイラ化した頭をラヴィーニュ氏が持っているかは謎だ。なにしろ、19世紀に活躍したベンサムは大賢人であったと同時に、かなりの変人だったため、「自分が死んだら、遺体は『オート・アイコン(自己標本)』にしてくれ」と遺言していたというのだ。

 実際遺言通りとなり、現在、彼の身体はミイラ化され、服を着て、杖をもち、イスに座った状態でユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンに展示されている。ただし、頭部だけはミイラ化の過程で深刻なダメージを受けたため、代わりにロウでつくったレプリカが据えられている。

■アメリカン・ジョークなのか?

 本物の頭部は現在、同大学の考古学研究所で厳重に保管されており、“貸し出し”はしていない。つまり、ラヴィーニュ氏が申し出たアタマがジェレミ・ベンサムの頭部だとは到底考えられないわけだが、確かにラヴィーニュ氏のツィッターにはどこにも「ホンモノのジェレミ・ベンサムの頭部」とは書かれていない。どうやら、ラヴィーニュ氏がTSAをからかっているらしいと察しがつく。

 しかし、TSAも好機を逃さない。この珍妙なアイテムの画像を、自社のインスタグラムにアップして「手荷物の持ち込みについて、いかなる質問も受け付けています」と、ちゃめっ気たっぷりに啓蒙活動に役立てている。

 ごくたまに、空港のセキュリティをかいくぐって、本来なら持ち込み不可なブツを機内に持ち込む悪党がいる。だが、ミイラ頭なら害もないだろう。まんまと運輸保安局のPRに使われたといえなくもないが、これぞアメリカン・ジョークなのかもしれない。あまりのグロさに多少、笑いが引きつってしまいそうだが。
(文=佐藤Kay)

参考:「Daily Mail」、「Consumerist」ほか

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