【インタビュー】森林ジャーナリストが追う、ボルネオ島で出会った“幻の民”やソロモン諸島の伝説

■ボルネオ島の魅力

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――田中さんご自身ボルネオ島には、何度も足を運ばれています。その魅力とはどんなところでしょうか?

田中 大学の探検部で野生のオランウータンを探そうと、初めて訪れた海外がボルネオ島だったんです。

 そのときは、州政府がガイドをつけてくれました。小さいときから、子供向けの探検記を読んでは、熱帯雨林がどんなところかイメージはしていたため、ワクワクしながら足を踏み入れたのですが、実際の熱帯雨林は、薄暗くて蒸し暑く、地面はぬかるみで、虫はそこらじゅうにいて、その中を歩くのは、強烈な体験でした。

 知識としては、そのような過酷な環境が広がっているとわかっていましたが、それに身体がついてなかったんでしょうね。ただ、この過酷な体験でボルネオ島に夢中になり、森林生態系に興味を持つキッカケにもなりました。このことがなければ森林ジャーナリストと名乗ることもなかったでしょう。

――今の時代、さまざまな情報があふれかえり、秘境と呼ばれる場所、さまざまな伝説の地が生まれる余地が少なくなっているようにも思います。

田中 情報が伝わりやすくなったという背景もあるでしょうが、教育がある程度行き渡った結果、伝説などが否定されてしまう側面もあると思います。秘境といわれる地帯に住む人たちの心の奥底はともかくとして、ですが……。

 たとえば、ソロモン諸島へ、1983年にひとりで訪れた際には、ソロモン人が亡くなると、西部の孤島であるシンボ島のパッキオ山という火山に魂が飛んでいくという伝説や、このシンボ島が「女護が島だ」という伝説を聞きました。これは、昔、部族同士の争いが盛んで、他の島からめぼしい女性を連れてきたために、その末裔であるこの島の住民は美女ばかりだというのです。

 しかし、91年に大学の探検部のメンバーを連れ再び現地へ赴くと、地元の人たちは「そんなものは伝説だ」「物語にすぎない」と口々に話すんです。ほんの8年の間にガラっと変わってしまいました。

 聞いたところによると、この間に、ヨーロッパから来た人が「あなたの信じているものは嘘」で「伝説に過ぎない」と教えたらしいんですよ。それで伝説などを信じなくなったようです。2回目は、聞き取り調査に行ったのに、つまらない結果になったのを今でも覚えています(笑)。
(取材・文=本多カツヒロ)

■後編はこちら

田中淳夫(たなか・あつお)
1959年大阪府生まれ。静岡大学探検部を卒業。森林ジャーナリスト。著書に『森林異変』『森と日本人の1500年』(平凡社新書)、『樹木葬という選択』(築地書館)など多数。

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