「金正男暗殺に使用された毒」はどれか科学ライター・クラレが徹底検証! リシン、VX、ボツリヌストキシン…!?

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●3「リシン」説→そこそこ安定しているが失敗例もある

 そうなってくると、やはり人間の合成した毒ではなく、圧倒的微量で毒性を発揮する「リシン」などの天然毒素が候補に挙がってきます。しかし、「リシン」をはじめ、「コブラ毒素」「サソリ毒素」「パリトキシン」などの海洋毒素など、数ミリ以下で十分致死に達する天然猛毒も問題がないわけではありませんリシンを使った弾丸も過去に使われていますが、一部は失敗しているように、超猛毒といっても、体内に速やかに拡散しなければ、その毒性が出ない場合もあります。

 さらに、問題は製造法と安定方法です。実際にリシンは常温でもそこそこ安定だからこそ、かつて兵器利用が考えられたわけですが、コブラ毒やサソリの毒などは、抽出しても要冷蔵、要冷凍な超生もの。ある程度組織的に運用するのであれば、量も必要になりますので、合成にも難が生じます。コブラ毒は大腸菌などに生産DNAを組み込んで大量生産することもできますが、そこからの抽出、兵器化のテスト、毒性確認など膨大な試験が必要になってくるため、現実的では無い気がします。


●4「テトロドトキシン」説→結晶化が可能で安定しているが、入手・製造が困難

 安定して強い毒素をもち、簡単には蒸発せず(蒸気圧が低く)、ごく微量で致命的で、装置の不都合で内部で破損しても使用者が被毒しにくいような、結晶ないし固体の状態がとれる「猛毒」となってくると、本当に数が限られてきますが、自然由来で超猛毒なものであっても、合成法が確立しているものはいくつもあります。「アコニチン」や「テトロドトキシン」といった猛毒は、動植物から抽出せずとも合成することも可能で、結晶化の方法もかなり研究されており、現実的な分量をミクロな弾丸に詰めるとなると、現実的です。ただし、こうした自然由来の超猛毒も、それなりの分量をまとまって手に入れるには難があります。天然物から抽出するには、相当な分量の自然素材が必要になり、またよろしくないことに濃度はマチマチです。確実性を期すには合成したほうがよいのですが、それはそれで優秀な有機化学者が必要になり、ラボもそれなりに設備投資が必要で、新たな研究も必要な部分も多いでしょう。


●5「ボツリヌストキシン」→安定していて低コスト

 そうしたコストのかからない猛毒があります。「ボツリヌストキシン」はタンパク質毒素で有りながら、美容用途で大量生産が行われ、乾燥状態の安定した粉末化にも成功しており、ノウハウがすでに蓄積されています。こうした研究下地があれば、兵器転用はかなり低コストで可能です。ミクロな毒針という用途であれば、ボツリヌストキシンはおそらく最も候補にあがる毒物ではないかと思われます。  


●6「複数の毒を1つにした合剤」→可能性は高い

 さて、実際に暗殺で使用するとなれば、こうしたいくつかの作用機序の近い毒素の合剤という可能性も高いでしょう。毒素は合わせることで相乗効果(効果低下の拮抗も当然ある)を起こすこともあるうえ、検出も困難になりがちです。


●番外編「スプレー説」→カモフラージュの可能性

 また、金正男氏の暗殺事件では、スプレーを顔にかけたという説もありますが、スプレーに猛毒が仕込んである場合、他人を数多く巻き込んでしまう可能性が高く、その場合は謀殺ではなくテロとなり、それこそ問題がややこしくなりがちです。ゆえに、そうした派手な部分は真相を隠すためのカモフラージュ用の演出である可能性があります。つまり、手品と同じで目を引く部分が本体ではなく、その裏に隠された「何か」が本体である可能性です。

 そうした部分は報道されることも少ないので、深層は闇の中……ということになるのでしょうね。
(文=くられ)


●くられ

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 添加物を駆使した食欲の失せるカラフルな料理やら、露悪的で馬鹿げた実験を紹介していく、「アリエナイ理科ノ教科書」の著者、サイエンスライター。公演やテレビ出演なども多数。無料のメールマガジンも配信している。ひっそり大学で先生をしてたりもする。WEBや雑誌での薬と毒関連の連載をまとめた新刊『悪魔が教える 願いが叶う毒と薬』(三才ブックス)が好評発売中。また、アリエナイ理科ノ教科書などの執筆活動の他、漫画や小説の科学設定/監修なども手がけ、そうした活動をまとめた本『アリエナクナイ科学ノ教科書  空想設定を読み解く31講』が発売決定。
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【これまでの猛毒一覧】

・ 青酸カリ「前編」「後編
・ リシン「前編」「後編
・ クロロホルム「前編」「後編
・ 一酸化炭素「前編」「後編
・ 覚せい剤「前編」「中編」「後編
・ トリカブト「前編」「後編
・ タリウム「前編」「後編
・ ドクウツギ「前編」「後編
・ ヘロイン「前編」「後編
・ フグ毒「前編」「後編
毒キノコ
・テタヌストキシン「前編」「後編
・大麻「前編」「中編」「後編
ドウモイ酸
・ヒ素「前編」「後編
・「ドクササコ
・「ライチ

コメント

1:匿名2017年2月18日 23:05 | 返信

スプレーが目潰し、催涙系で
ハンカチの方が塩化水銀溶液とかかなぁ
気化するのが大前提だとしてもハンカチにサリンみたいなの使っちゃったら
使用者も今頃病院送りだろうしなんの毒だろね

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