心が辛くなるほど“オタクの実像”に迫った映画『堕ちる』! アイドルにガチ恋した中年男の末路とは? 監督・村山和也インタビュー


■地下アイドルシーンのリアルさ

心が辛くなるほどオタクの実像に迫った映画『堕ちる』! アイドルにガチ恋した中年男の末路とは? 監督・村山和也インタビューの画像6堕ちる』より

――アイドルと出会うまで何もなかった部屋がポスターやグッズが増えていって、彩りが増えていく感じとか。そういうアイドルオタクのリアリティを出すために現場に行ったりしたんですよね?

村山 そうですね。アイドルファンって怖いじゃないですか(笑)。下手に描けないなっていうのはあったし、今さら中途半端にバンダナにチェックのシャツみたいなオタク像は出せないなって。それでアイドルオタクの先輩に話聞いてみたり、AKB48や地下アイドルのライブに連れて行ってもらったりして、そこで「いきなりサイリウム配られるんだな」とか色々経験して。


――初めてのアイドルライブ体験シーンとか、すごくリアルですよね。上映会でもあそこで爆笑が起きると「あ、今日のお客さんはアイドルオタクが多いな」っていう(笑)。

村山 コメディのつもりではあったんですけど、人間ドラマとしてのコメディってところで、あそこまで笑ってもらうものを作ったつもりではなかったんですよ。でも気持ちいいですね(笑)。


■撮影2日! 短編とは思えない濃密さ

心が辛くなるほどオタクの実像に迫った映画『堕ちる』! アイドルにガチ恋した中年男の末路とは? 監督・村山和也インタビューの画像7堕ちる』より
心が辛くなるほどオタクの実像に迫った映画『堕ちる』! アイドルにガチ恋した中年男の末路とは? 監督・村山和也インタビューの画像8堕ちる』より

 村山監督は映画としてはこれが処女作だが、乃木坂46やNMB48をはじめとしたアイドルグループ、それ以外にもロックバンドなど多くのMVやCMを手がけており、映像制作の実績は十分。『堕ちる』は撮影期間わずか2日とは思えないほど濃密だ。

――30分の短編ですけど、映像の繊細さとテンポの良さで充実感高いです。短さがよりストーリーの強さを引き立てたというか。

村山 撮り方とか編集のリズムとかは、気持ちいい感じにつながってると思います。今の時代テンポよくないと観てくれないし、30分でも「長い」って見てくれない人いるかもしれないし。ただ、短編にしてはシーン数めちゃくちゃ多いと思いますね。


――映画を観る直前に30分の短編って知って「え?」ってお客さんも結構いたと思うんですけど、観ると不満はないというか。

村山 そこは気をつけたというか。自己満足にならないように。短編ではあるんだけど、なるべく長編的に見せたいなと思って、3幕構成という長編映画のベーシックな構成にしました。王道なフォーマットでどれぐらい人間を演出できるか見せたかったというのもありますし、「長編も撮れそうな監督だな」と思ってもらえればっていうのもありますね。


――これまで監督してきたMVの経験が活きたところはありますか? 

村山 めめたん雲とか最後の方とか、合成とか含め編集は自分でやってるんですけど、MVってお金ないんで専門のスタジオに頼めないから、ほとんど自分でやんなきゃいけないんですよ(笑)。そういうところは予算がないわりには見れるものになってるんじゃないかなと。


――めめたんの歌「wonderland」の歌詞と映像がピタっとハマってるのもすごいです。

村山 曲は中学時代からの友人の前口渉(アニメ・アイドル中心に作曲・編曲を手がける音楽家)に書いてもらったんですけど、まずあらすじを見せて書いてもらった歌詞だから、すごく耕平の心情が入ってますよね。それに前口の曲自体のよさもあります。

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■主演、中村まことのハマり具合

 主人公の耕平役を演じたのは劇団猫のホテルの創設メンバーで人気役者の中村まことさん。仕事一筋に生きてきた織物職人、という役柄にはぴったりで、それだけに地下アイドル現場という真逆な場所での存在が光り、コメディとしての魅力が引き立つ。

――主演に中村まことさんを選んだのはなぜでしょう。

村山 主演の職人役はけっこう難航して、知り合いのプロデューサーで高校の同級生だったやつがいて、そいつがすごく演劇を見てるやつなんで、いい役者がいないか聞いてみたんです。それで最初は別の人の名前を挙げてくれたんですけど、その人の劇団のホームページを見たら中村さんがいて。『この人の方がいいんじゃない?』って思ったんです。それで脚本送ったんですけど、舞台の稽古期間中だから、ってなかなかOKもらえなくて。でも、セリフが少ないのと撮影が2日間っていうんで受けてもらえたのもありますね。


――映画を見てしまうと、中村さん以外想像がつかないです。

村山 それは本当にラッキーで、まことさんじゃなければ全然違う映画になってたかもしれないですね。すごくハマりました。


――他の稽古中に2日間撮影ということで、中村さんも役作りとか難しかったと思いますが、撮影で見た中村さんはどんな印象でした?

村山 それこそ役にすごく入る人で、撮影の最初は病院のシーンからだったんですよ。それでもうぐったりされてるから「大丈夫かな?」って感じだったんですけど、最後のシーンとかしつこいくらいに絡んでくるみたいになってて(笑)。本当にその時のキャラに入り込むんだな、役者だなって感じでしたね。撮影が終わっての打ち上げもすぐ帰らなきゃいけないっていうんでいらっしゃらなかったので、実体がわからないままでしたね。舞台も観に行ったんですが、すごく良い声出してらっしゃるから、また喋る演技の時お願いできたらいいんですけど。


――ちなみに主人公の耕平って最後のひとことしか喋らないですけど、そこは最初から考えてたんですか?

村山 最初から考えてたわけじゃないんですけど、脚本書いてみたら凄く少なくなっちゃって。じゃあもう1回だけの方がいいのかなと思って。あと「耕平」ってのは自分の叔父の名前で、病気であんまり喋らない人だったんです。それでひとことも喋らないキャラにしたってのはありますね。


――『堕ちる』って中村さんはもちろんですけど、ザ・アイドル感満点の錦織めぐみさん、そしてそれ以外のオタクの人たちや床屋さん、街のおじさんおばさんまでみんな顔がいいですよね。

村山 そうなんですよね、それをわざわざ狙ったとかはないんですけど。それにトップヲタの人とかスタッフですからね(笑)。ただ顔アップが多いのは、MVやってる癖というのはあるのかもしれないです。


■盛況な自主上映会 ジワジワ広がる『堕ちる』の世界

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 9月のきりゅう映画祭での上映以来、出演の中村まこと氏や錦織めぐみさん、映画評論家の柳下毅一郎氏、コラムニストのジェーン・スーさん、タレントの松尾貴史氏などを招き、主に上映会+トークショーというかたちで上映。また1月19日の上映会では「現役アイドル入場無料」をうたったところ、20名近くの現役アイドルが来場。本物のアイドルからも注目されていることを証明した。


――それで初上映となったきりゅう映画祭からロフト9での上映で、まずはアイドルオタクを中心に話題になりました。

村山 最初はあんまり人前でかけるというのは考えてなかったんですよ。映画祭とかで賞をとれれば、今までお世話になった人への恩返しになるのかなっていうのがまずあって。こんなに関心をもってもらえると思ってなかったです。


――ということは、そこまで自分としての評価は高くないんですか?

村山 いやっ、僕としては全力を尽くしたんで満足できるものが出来たと思ってるんですが、世間的にそこまで『観たい』と言われるとは思わなかった。需要があると思ってなかったですね。


――きっかけはアイドルファン層だったと思いますが、徐々に映画としての評価が高まっていってます。監督としては、これをきっかけに長編を撮りたい?

村山 そうですね、そこで勝負したい。


■次はヴィジュアル系をテーマに撮りたい

――具体的にこういう内容を撮りたいってありますか?

村山 1つ撮りたいのは、アイドルやったからじゃないけど、ヴィジュアル系をテーマに撮りたいってのもあって。PV何十本も撮ってた時期があるんで、自分がやるには説得力があると思うんで。またヴィジュアル系って独特の文化があるじゃないですか。


――アイドルオタクとは別の、なんとなくで書くとファンに怒られるやつですね。

村山 説得力あるように頑張りたいですね(笑)。いきなり重厚なヒューマンドラマとかのオファーもないと思いますし、音楽とかアイドルとかそういう要素が入ってくるかなと。


――基本は広く伝わるエンターテイメントで。

村山 そうですね。アート映画ももちろん観ますけど、自分が作るとなるとエンタメっていうか、自分で面白いと思わないとなかなか……世に出しちゃダメだと思ってるんで。


――やはり自分の名前が出る映画は撮りたいけど、その辺のバランスは取りたいと。

村山 そうですね、やはり面白いものを作りたいというのはありますし、映像は観る人の時間というか寿命を奪うものだと思ってるので、「観て良かった」と思えるものを作りたいですね。死ぬ前にあの映画を観た時間を返せとはならないように、想いを込めて今後も映画を撮り続けられるといいですね。


■中曽根康弘元総理を占った占い師に言われた予言が当たる!?

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――そういえば上映会のトークゲストで呼ばれた松尾貴史さんも「何か賞獲れると思いますよ。こういうの結構当たるんですよ」と言われてましたよね。

村山 そう言って頂けて光栄ですよね。そういえば、結構占い好きなんですよ。それで中曽根元総理を占ってたって人に会ったことあって、その人に占ってもらった時に言われたのが「35歳でドカンと来る」なんですよ。2017年なんですよね。海外に縁があるとも言われて、当たればいいですよね。
(文・大坪ケムタ/YAVAI-NIPPON)

■作品info
『堕ちる』
HP:http://ochiru-film.com/
twitter:https://twitter.com/ochiru_film
※上映会についての情報は、公式twitterで確認してください。

■作者プロフィール
村山和也(むらやま・かずや)
映像ディレクター。1982年石川県生まれ。2002年ニューヨーク市立大学在学中に短編映画から映像制作を始める。2004年帰国後、CM制作会社を経て、2008年よりMV・CMを中心に映像ディレクターとして活動をスタート。

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