映画『MOTHER FUCKER』大石規湖×谷ぐち順 第3回

バンド活動、子育て、障がい者介助…すべて全力の家族を追った映画『MOTHER FUCKER』が最高にブチ上がって泣けて笑える!(監督・大石規湖×谷ぐち順対談)

バンド活動、子育て、障がい者介助…すべて全力の家族を追った映画『MOTHER FUCKER』が最高にブチ上がって泣けて笑える!(監督・大石規湖×谷ぐち順対談)の画像3© 2017 MFP All Rights Reserved.

■共生しない社会で誰が幸せになれるのか

――僕も障がいのある方を目にすると、つい身構えちゃいます。

谷ぐち 誰でもそうなんですよ。単なる慣れなんで、普通に見てればいいんじゃないですかね。俺なんか、例えば障がいを持った方が駅のホームとかにいたりするとつい見ちゃって、嫁さんに「ほんま好きやなあ」って言われるし。

大石 めっちゃ見てますからね。

谷ぐち やっぱり、「どんな感じの生活してるのかな?」とか「へえ、あんなTシャツ着てるんだ」とか、気になっちゃうんですよ。

大石 谷さんたちの周りの障がい者の方々も、面白い人たちばっかりなんです。この前紹介してもらった脳性麻痺の男性は、三軒茶屋でカフェを開いて、自分でケーキとかを作って売って、バンドもやってて。その人もね、ただのエロオヤジなんですけど、ライブではモヒカンにして、赤いシャツ着て、かっこいいんですよ。

谷ぐち 脳性麻痺とか、身体に障がいがある方で自立して、一人暮らしをしてる人は結構多いんですよ。平山さんもそうだし。ただ、知的に障がいがある方は、やっぱり施設に入るのが定番なんですね。親はギリギリまで面倒見るんだけど、それ以降の選択肢がないんで。でも、「施設なんてとんでもないよな」って方ばっかりなんですよ。なんでかっていうと、例えば毎日必ずTSUTAYAに歩いてって、DVDを1枚借りて、帰ってきて観る、っていう生活をずっとしてる人がいる。その程度でも、少しずつ人との付き合いとかが変わってきたりするんです。それが施設に入れられると、そうやって積み上げてきたものがゼロになっちゃう。そんなの、とてもじゃないけど受け入れられないですよ。だから知的に障がいがある方も地域で、最低でもグーループホームで支えられるように、共同生活できる家を作りたいんですよ。っていうか、共生社会なんて当たり前じゃないですか。共生しない、誰かを排除する社会で、いったい誰が幸せになれるんですかって話ですよね。


■感動モノはレスザンらしくない

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――大石さんは谷ぐち家に1年間密着して、ずっとカメラを回し続けていたわけですけど、その膨大な量の映像を、よくここまでタイトに編集されましたね。

谷ぐち 執念の編集ですよね。

――テンポも素晴らしいし。大量のバンドの演奏シーンにしても、各バンドそれぞれ30分ほどのセットがある中であの十数秒を拾うって、どうやってるんだろうなって。

大石 バンドのシーンに関しては、迷いませんでした。ただ単に、一番かっこいいところを切り取っただけですね。

谷ぐち 大石さんはずっとライブを撮り続けてるから、感覚的にできるのかもしれないですね。俺も編集中の演奏シーンを見せてもらって「ここ、もうちょっと長くなかった?」とか言ってみたんですけど、ほんの数秒長くなるだけで印象がぜんぜん違うんですよ。だから、俺は口出ししちゃダメなんだなって。

大石 でも、谷ぐち家のシーンに関しては、客観的になれなかったから迷いまくりました。

谷ぐち あっ、俺は終電がヤバいんで、帰りますね。お2人で続けてください。今日はありがとうございました!

――えっ。あっ、こちらこそありがとうございました! お気をつけて!

大石 おつかれさまでした~!

――……で、編集についてなんですが。

大石 ええと、本格的に編集作業にとりかかったのが去年の年末ぐらいなんですけど、その矢先に、母が脳出血で倒れちゃったんですよ。それで実家に機材を持ち込んで、1カ月間、毎日病院に通いながら編集して。と同時に、私は父との関係が良好とは言えなかったんですけど、谷ぐち家の撮影をしながら素直になんでも話せる家族に憧れるようになっていたのもあって、そのとき本気で父とぶつかり合えたんですよ。だから「家族というものに対する自分の感情を素直に描けばいいんだ」っていうモードに入ってて、第1稿はエモくなりすぎちゃったんですよ。

――たぶんこの映画は、編集次第でベタな感動モノに仕上げることもできたと思うんです。それを、よくここまでカラッとさせたなって。

大石 実家から東京に戻ってきて、またレスザンのイベントに行ったりしたんですけど、やっぱりバカバカしいんですよ。そこで、ありきたりの感動映画はレスザンじゃないと思って、作り直してああいう感じに。

 例えば今年の「METEO NIGHT」も、2日目にECDさんからStruggle For Prideっていう感動的な流れがあったじゃないですか。普通ならそこで大団円を迎えますよね。なのに、そのあと谷さんとPUNKUBOIが出てきて、相撲をとって、最終的にPUNKUBOIがアイドルソング(Summer Rocketの「プールサイドのイルカ」)をかけて終わるっていう。「なんのための2日間だったの?」みたいな脱力感。やっぱりこのくだらなさがレスザンの美学だから、自分の編集は間違ってなかったと確信しました。

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