土地の呪縛と殺人事件の相関をめぐる旅で見えたものとは?『日本殺人巡礼』八木澤高明氏インタビュー

――本庄保険金殺人事件や和歌山カレー事件などのように、大きな事件として連日テレビや新聞などで扱われると、犯罪者をどうしても異質な存在として見てしまいがちです。でも、冷静になって考えてみれば、誰もが犯罪者になる可能性はあるわけです。我々と彼らを隔てているものとは?

八木澤氏:結局、境界線はなく、グレーゾーンなんじゃないですかね。ニュースとして消費される際、そういう特異性に注目させることで、我々と彼らを隔てている境界線が実際にあるように思わせているのかもしれません。ただ、特異性を報じないと事件の概要もわかりづらいですし、報道する意義が薄まってしまうのも事実でしょう。だから、犯罪というのはすごくセンシティブなものだと感じています。

 社会が変われば、法も変わり、犯罪も変わります。現在では禁止されていますが、江戸時代までは仇討ちは認められていたわけですから。それが明治に入り、西洋の法律が入ってきて禁止されたんですよ。

――最後に、どんな人に本書を薦めたいですか?

八木澤氏:普段から笑顔を絶やさず日常を送っていても、一皮剥けば誰だって何かしらの悩みを抱えているものです。そのなかでも、特に行き詰っている人に読んでほしいと思います。この本で取り扱った多くの事件の背景には、風土や差別、貧困といった、自らではどうにもならないものが影を落としています。自分の力でどうにもならないことに悩んでいるなら、あまり根を詰めすぎず、もっと自分自身にオープンになってもいいんじゃないでしょうか。それには外へ目を向けること。肉体的にも精神的にも、いったん外に出れば、自分がいた環境を俯瞰して見ることができます。土地や家の呪縛から自由になるために、できることはきっとあると思います。そのために背中をそっと押す一助ともなれば、著者冥利に尽きます。

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■八木澤高明(やぎさわ たかあき)

1972年横浜市生まれ。ノンフィクション作家。写真家。写真週刊誌「FRIDAY」の専属カメラマンを経てフリーに。小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞した『マオキッズ 毛沢東のこどもたちを巡る旅』(小学館)の他、『黄金町マリア 横浜黄金町 路上の娼婦たち』(亜紀書房)『娼婦から見た戦場 イラク、ネパール、タイ、中国、韓国』(角川書店)などの著書がある。

取材=本多カツヒロ

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