川崎の地獄は日本の未来か? ディストピアでもがく不良たちのヒリヒリする生き様『ルポ 川崎』磯部涼インタビュー

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■幽霊よりも人間のほうがずっと恐い

――これはトカナ的な質問になりますが、「川崎中1殺害事件」の現場近くで、幽霊を見たとか、人魂が出るとか、そういうオカルト話は耳にしませんでしたか?

磯部  これまでのところはありませんね……。ただ、現場に行って感じたのは、むしろ、そういった話が“何もないほうが怖い”ということです。

 中1殺害事件の現場は、知らなければ通り過ぎてしまうような普通の場所。夜は人気がありませんが、昼間は地元の人が釣りをしていたり、野草を採っていたりする河川敷です。すぐ横にはタワーマンションがあって、そこの住民からは現場がよく見えるでしょう。でも、そこで何が起きたか、もうほとんど意識されていない。恐らく、「幽霊が出た」というような類の話って、先程の都市伝説と同じように教訓として機能するというか、かつて起きた悲惨な出来事を人々が忘れないようにするために自然発生するものですよね。もちろん、被害者や加害者に近しい子どもたちや大人たちは、いまだに事件のことを重く受け止めていますが、「川崎ではあんな事件は表沙汰にならないだけでありふれてる」とうそぶく不良もいましたし、ほとんどの人々にとってはオカルト話にすらならないというのが実際のところでしょう。

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 簡易宿泊所火災の現場も、今はただの空き地になっています。川崎老人ホーム連続殺人事件の現場にいたっては、名前だけ変えて、全く同じ建物で経営が続いている。その老人ホームは、住宅街の真ん中にあって、ここで何人も殺されたとは想像できないほど。そういった状況で、淡々と日常が続いていることにゾッとします。

 だから、幽霊よりも人間の方が怖いですよ。あるいは、そういった忘却、順応こそが人間が生きていく上で必要な強さなのかもしれないですけどね。

――それは川崎以外でも言えることかもしれませんね。

磯部  もちろんそうです。例の座間9遺体事件でも、事件が起こった建物自体、もともと事故物件だったと言いますよね。「事故物件は死の記憶が染み付いているから怖いのではなく、そういう場所であることをまったく気にも留めない人間が集まってくるから怖いんだ」と言っているひともいました。本書はそのような問題の象徴として“川崎”を描いているわけです。

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